高屋敷英夫
脚本家。「飛べ!イサミ」(NHK 1995〜1996)や手塚治虫作品のアニメ脚本など数多くを手がける。
ガンバの冒険
NTV系1975年。原作は斎藤惇夫。手に汗にぎる冒険と友情のストーリー。
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だから、天下のドラゴンクエストになかなか続きが出なかったり、MOTHER3がほとんどできたというウワサが流れたのになぜか出なかったりするんじゃないかとわたしは思ってるんだけど……ゲーム制作サイドの苦労とかは、よー知りません。
とりあえず……わたしが「ノベライズ担当(個人的には、ドラクエ伝記作家と名乗りたいところですが)」に抜擢していただいた時点で、すでに、ドラゴンクエストシリーズは黄金のタイトルだったわけです。「いち」から「さん」までができており、その「さん」のゲームが驚天動地の大傑作で、ゆえにめるちゃんに誘われてヲタ本作らせてくれませんかと頼みにいったりしたというのは前述したとおり(ほんとうはドラゴンクエストのシリーズ名はローマ字表示するべきなのですが、機種によってモジバケするので、あえてこーかいてます)。
「いち」から「さん」までは高屋敷英夫さんとおっしゃるかたがノベライズを担当なさっておられます。高屋敷さんはあの、アニメ『ガンバの冒険』の脚本をお書きになったかたです。
そのセンパイから『天空三部作』こと、「よん」「ご」「ろく」のノベライズ権? を奪取させていただけてしまって、高屋敷さんには申し訳ありませんが、わたくしめはほんとうに嬉しかったし、ありがたかったです。ものすごい勉強になりましたし、多くの収入を得ることができました。新刊本が書店の「今週のベストセラー」などで燦然とトップに輝くという、モノカキならばだれでもが夢みる経験をさせていただけたのも、小説ドラゴンクエストあらばこそです。
ていうか、なによりかにより!
わたしはRPGドラゴンクエストを心の底からスゴイと思っていて、愛していたので、そのスゴイものに関わることができるというだけでも感激でした。
が。
ルビ伝での「テスト」を経て、いちおースキルを認められたわたしに振られた最初の仕事が「よん」で、そのゲームがまた、「うそでしょ」というぐらい、当時としては「信じられないほど」クリアまでのプレイ時間の長いものだった。でもって、「さん」までに十分感動していたわたしの目から見ても「すげぇ!」とマジ驚くような構成・展開をもっていた。
「こ……これを小説に? 全部?」わたしは担当のワタナベくん(わたしの歴代担当の中でも素晴らしいひと偉いひとベスト3に間違いなく入る、ものすごく優秀で、しかもシゴトへの愛をもっているステキなやつでした)を上目遣いに眺めました。「十巻かけてもいい?」
「だめです」ワタナベは即座にクビを降り、ピースより一本多く指をたててわたしの前につきつけました。「最大三巻。これは守ってもらいます」
「……うううう……やってみる……けど……」
主要な登場人物だけで八人いるじゃん! あまつさえ、わたしごのみの美形(←二頭身絵でもちゃんと美形に見えている)悪役ピサロさままでいる。この全員にちゃんとそれぞれのキャラらしさをつけて、しかも見せ場を設けて、しかも、ゲーム版ドラゴンクエストを愛しているユーザーのみなさんに「ちがう!」といわれないようなものを書かねばならないのか……なんちゅー重たい任務や。
もちろんドラゴンクエストの「第一」の生みの親は、堀井雄二さまです。彼のシナリオとゲームデザインのセンスは圧倒的です。でも、鳥山明さまのキャラ、すぎやまこういち先生の音楽と「三位一体」となってよりスゴミを増していることは否めますまい。そのお三方に対して、どうしたってもってしまう敬意。これがまず、高い高いハードルになりますです。
しかし、ゲームはゲーム。小説は小説です。
メディアの特性がまったく違う。
ゲームでは「オッケイ」な部分が小説ではそうではなかったり、ゲームでは「ここが肝心」な部分が小説ではそのような機能を持たなかったり、いろいろするわけです。
一例をあげれば、RPGドラゴンクエストをやっている間、プレイヤーがほとんどの時間何をしているかというともっぱら「戦闘」と「探索」でしょ。探索はまだいいです。小説でもそれなりに書きようがあります。しかし、戦闘シーンで、いちいちパーティーの誰を前に出して誰をひっこめて誰になんのワザをかけさせておいてから誰にどの武器でぶっ叩かせる……なんてーのをことこまかにいちいち書いたって、おもしろくもなんともない。
ゲームでは、そここそが(「よん」の時ってすでにオートコマンドありましたっけ?)プレイヤーの工夫のしどころだ。大ボス中ボス戦以外は、そこらのミチバタや怪しい建造物の中で、同じ敵あるいは敵グループと何度も何度も遭遇して何度も何度もしつこく戦闘をするわけです。戦闘やってる時間が一番長くて、戦闘やって勝つ、勝ってレベルがアップしたり、オカネが儲かったりして、嬉しい。でもって、そのたびにHP MPが減ってったり、アイテムや魔法でそれを回復したり、どの時点でなにをやるかを判断する。ちょっとヨミを間違うと教会でお祈りをしてもらわないとならなくなったりする。はたまた大切なアイテムをとりそこなうとあとあとたいへん。
よって、
小説だったらぜったいに、敵のいる塔のテッペンまでイッキに駆け上がらねばならぬところ(じゃないと盛り上がらない!)、実際のゲームの場合、とりあえずまず一階を全部ゆっくりきっちり探索して、もうどこにも隠し扉とかないな、というのを確認して、パーティーの疲労度が半分ぐらいだったら、とりあえず一番近所の村(あるいはもっとも宿泊料金のかからない場所)に戻って一泊してやすんで、こんどは一階は最短距離をつっきって、二階くまなくを探索して……とかって、やるでしょう、やりませんか?
これそのまんま書いたら、もう何巻あっても足りまへん。
「ゲームでやることそのまま」を、そのまま実録小説風に書いたって、ハシにもボーにもかからない、なんら面白くもなんともないものになる。
どうしたって、大胆な換骨奪胎というやつをやらねばならんのです。
大ドラゴンクエストを相手に!
超偉大な人気作品を相手に!
そのころ『ドラゴンクエスト』というシリーズそのものが既にゲームソフト界の怪物というか横綱というか、エニックス社(当時)の命運を、ほとんどイッコで背負って立ってたわけです。なにしろ出せば300万本とかあっさり売れちゃって、発売日の行列がニュースになり、悪いコドモがうまくトットと買えた子から強奪したとかいう事件までおきちゃうんですから。
ドラゴンクエスト関連商品、にも、この300万ファンの需要がある。ドラクエえんぴつ、ドラクエノートなどなど、「まるしー」つけて、エニックスの許可を得なければ作れない。この商品の販売ってやつも、エニックス社(しつこいけど当時)の重要な収入源であっただろうし、あり続けているわけです。
わたし自身、スライムTシャツを持っております。さらには、企画はあったけど実売はしなかったスライム・イヤリングの見本という珍品まで(担当のおかげで)持っております。魔法の鍵のついたキーホルダーは自分で買いました。さんざん使い込んだので、キーホルダーそのものはこわれましたが魔法の鍵はまだ大丈夫です。ガチャガチャで出てきたスライムナイトも大事にしてます。クレーンゲームでしかゲットできなかったらしいのを(アレはまったくヘタなので)オークションでたまさかみつけてワーイ! とゲットしたスライム・リュックサックも持っております(スライムばっかやね……)。わたしもファンのひとりで、ドラクエグッズで「好み」なものがあると、つい、手を出さずにいられないひとりなわけです。
そんなにも思い入れのあるわたしが、『小説ドラゴンクエスト』という名前の、公認というか、公式というか、とにかく本家本元からきっちり「お墨付き」をつけたものを出そうってんですから、こりゃあ責務は重大ですよ。胃が痛くなります。なにしろストーリーもキャラも原作をさんざん使用させていただくので、ドラクエ独占版権使いまくりです。
んなことが許される特殊な「商品」には、それだけのしっかりとした価値がないといけないし、ドラクエの名を汚すようなものはけっして出してはいけないわけです。
よって、ソフト(ゲーム)制作サイドからの「強烈」な圧力があるのも、無理からぬことなのでした。「スジを外すな」というお達しも掛け値なしでした。
「あー、なんでも好きなようにやってください」だった糸井さんとこの仕事とは、もうまるで別な世界でした。
まずゲームをやります。やりながら、全部ビデオに撮り、同時にメモも作ります。自分の印象に特に残ったところとか、たぶんあとできっちり書くことになるだろうシーンとかは、いろんな角度から丁寧に見返したりします。あとで見つけられるようにビデオの何分めあたりがソレかもメモっておきます。前に戦った敵とまたバッタリ出会ってしまってふつーの戦闘になっちゃったとことかはムダなのであわててビデオを止めて節約しますが、それでも、ものすごい巻数のテープが必要になるの、わかりますね? ちなみに、プレイヤーの「はい、いいえ」でその後の展開がそれぞれ別になっていそうなところは、SAVE機能を使って、「はい」の場合の展開と、「いいえ」の場合の展開をいちいち全部確認します。もちろんすべての「そこらのひと」と会話し、すべてのヒキダシをあけてみるように心掛けます。それでも漏れが生じてしまったりするので、ついには、こんなものを作ってもらったりしました。
シナリオを熟知した制作サイドのかたが、いっこいっこ確認しながら「会話」の「全画面」を収録したものです。ちなみに画面はモノクロのコピーで、たぶん、エニックス(当時)側にもこれと同じものがあったのだと思います。
ああ、あのころ録画可能DVDがあれば……!
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