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freebird

推薦図書
・ イリヤの空、UFOの夏 その4
・ Missing 10 続・座敷童の物語
・ ラグナロクEX.(8) FEARLESS(フィアレス)


イラスト評




イリヤの空、UFOの夏 その4
   深く深く感動した。もう言うまでも無いだろう。最高の作品だ。読み終わった後に残滓として残る感情も言葉にならない。何度も読み返したがその度にその感動は甦ってきた。
 まず、描写が凄まじい。癖のある描写ではあるが、人物の感情、主観というものを大切にした描写であり、気が付けば感情移入をしており、世界にのめりこんでいる自分がいる。主人公・浅羽の弱くだが強い心の葛藤。その周りにいる人々の、様々な想い。あらゆる要素が複雑に絡み合い、もはや私はその世界から抜け出すことなどできはしなかった。
 一度読んでしまったら消して離すことはできないだろう。気分転換に再読して気付いたら一時間経っていたなんてことが何度あったことか。
 この4巻において。私はあの海岸で浅羽が泣いていたシーン。あそこが印象的だった。彼は充分頑張ってきた。けれど、ついにあの場面で彼は叫んだ。今思い出しても涙腺を緩ます。あのシーンの描写がまた、衝撃を与える。海岸に打ち棄てられた様々な夏の忘れ物。それら一つ一つを描写して描き出す秋山瑞人という著者には、大いなる尊敬の感を抱く。
 その他に印象に残ったものが、榎本の言葉だ。『UFOというのは、通販の健康器具のようなものだ』(うろ覚え)という言葉。私には、この言葉が凄く共感を抱くことの出来る言葉だった。
 ラストはやはり、最高に感動した。ネタバレは出来るだけ避けたほうがいいのかもしれないので詳しくは書かないが、やはりどうしてもあのシーンは……切なすぎる。彼女とのやり取りだけではない。勿論彼女とのやり取りにおける告白、浅羽の告白。あのシーンも勿論最高だ。まさしく文字通り、胸を強く打つシーンだった。だがそれだけではなく、甲板の上での浅羽と榎本との、やり取り。『浅羽は表情を失った』その言葉から始まる一連のシーン。『イリヤ』における物語の一つを凝縮したシーン。言葉などは要らない。読んでいない者は是非とも読んで欲しい。必ず、読み終わった後に深く心に残るものがあるから……。
 物語全体を通してもその構成は素晴らしいといえる。最初はギャグ。笑わないことなどできなかった。素晴らしい。そう、それだけでも十分素晴らしかったのだ。それが『イリヤ』の評価だったはずなのだ。だがどういうことだ? 3巻からの急展開。あれはまさしく、良い意味での裏切り。衝撃的すぎた。トイレでの浅羽の決心。彼の成長は、物語全体おける重要なテーマだった。中学生。思春期の真っ只中を歩む少年少女たちが、戦争が生活に溶け込んでいるというあまりにもおかしな世界で繰り広げる、あまりにもありえなく、あまりにも身近な、あまりにもスケールが大きくて、あまりにも小さな、物語。感動の物語。心に残る物語。強いテーマを描いた物語。是非読んで欲しい。決して損はしない。最高の物語だ。私もこれから先、忘れる事は無いだろう。
 最後に戯言を。私個人としては、この物語の後、浅羽と秋穂には是非幸せになってもらいたい。彼女はまだ浅羽を想っているのだろうか? そうであってほしい。そして二人は、これからも幸せになって欲しい。いりやのことを考えるとそれはあまり良い終わり方ではないのかもしれないが、私としてはそれを強く望んでいる。壮大で不思議で、そして悲しい物語の後には……どうか、小さくても優しく、幸せな……かけがえのない、日常を。
 でわでわ、freebirdでした。
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Missing 10 続・座敷童の物語
   このシリーズの特筆するべき点は、やはりその独特な描写によって感じることの出来る、最高級の恐怖。ライトノベル的な恐怖ではあるものの、下手なホラー小説なんかよりも遙かに怖ろしい。この作品はまさしく『背筋を凍らせる作品』といえる。
 さてそんなシリーズだが、これは当然ただのホラー物語ではない。ライトノベル特有というか、広い世界観とぞくぞくする物語や人物関係が描かれている。私が特に好きなのは大迫の存在。そして武巳。魔女たちが当面の敵として存在しているからか、私は大迫を敵のように感じられないのです。ですから、敵でない存在でありながら特異な能力を持っている、ということでかなり大迫は期待できる存在……武巳を惑わす存在でもありますしね。本作でもやっちゃってくれましたし。そして武巳。やはり彼でしょう。彼のあの弱さと強さは、本当に好感が持てますね。というかMISSINGはこういう、各人間キャラの強さと弱さを描くのが本当に上手い。物語が進んでいき様々な思惑が複雑に絡み合ってきた今、各キャラクターの持つ弱さが鮮明になってきて、これからの展開にも大きく期待できますね。何しろ、あの空目にも弱さが表れてきたのですから……(最初から持っていた弱さですが)。
 でわでわ、freebirdでした。
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ラグナロクEX.(8) FEARLESS(フィアレス)
   安井健太郎著、『ラグナロク』。何を隠そう、ライトノベルの中で私が一番最初に読んだ作品である。そして、私の中でのライトノベルに対する評価を変え、加えては小説全体に対する評価を変え、その後の私という存在を形成するにおいて非常に重要な役割を担った作品そして著者と言える。そしてこのシリーズの最新作である本作もまた、発売直後に購入し、楽しく読ませていただいた。
 さて、そんなこのシリーズは、果たして何が魅力的なのだろうか。私はその理由の一つに、ライトノベルとは思えないほどの描写力を掲げる。丹念な描写。ファンタジー世界という現実からかけ離れた世界でありながら、その様相を瞼の裏に明確に映し出してくれるその描写には、感動すら覚える。通常のライトノベルではここまでのレベルは珍しいだろう。その描写の高い能力が、そのままこの世界観を形作っていると言える。即ち、こういったジャンルでは感じがちな、『子供っぽさ』というものが殆ど感じられないのだ。それはキャラクターの平均年齢の高さやテーマの重さなども原因ではあるだろうが。ただし、敵の造形や武器特殊能力の原理などで若干のファンタジー色の強さは否めない。そこは少し勿体ないかと思われるが、それもまたこのシリーズの特徴ではあるので無闇に否定できないだろう。
 次に挙げられる魅力が、戦闘シーンの迫力。ここまで残酷かつ丁寧に戦闘シーンを描写する作品は、本当に稀であると同時に貴重であると感じられる。私自身も戦闘シーンを描く際、この作品を参考にしている。好き嫌いは別れるだろうが、戦闘シーンの中ではこの作品のものが最もレベルが高いと思われる。他に戦闘シーンを描きたいと思っている物書き志望の方も是非参考にしていただきたいと思う。この戦闘シーンというものがこの作品における最大のセールスポイントであることは著者も理解しているようであり、このシーンは特に出現率が高い。そのため、作品全体を通してかなり手に汗握る展開を多く感じることができる。かなり面白い、と私は言おう。しかもその戦闘というのがただ剣を振るうだけの戦闘ではなく、時に怪物になったり、時に剣以外の武器を扱ったり(私が好きだったのは、主人公が大工道具を用いての戦闘シーン)、またその戦闘場所も多彩である。市街地、列車の上などなど……オブジェクトも多用されており、もはや戦闘シーンにおいて文句はつけられないレベルである。本書においても、沼地において人智を超えた能力を操り、主人公と敵が対峙している。
 最後に挙げられる魅力が、長いシリーズによって培われてきた世界観。物語自体はありきたりな部分もあったり、戦闘シーンで引っ張っているような部分もあったりとそれほど評価はできないのだが、それらによって形成された世界観はかなりの規模を持ち、かなりの複雑さを持ち、更に本編だけでなく本書のような『EX』と呼ばれる外伝を用いて更なる高みにまで成長させられている。それはただの一冊の本だけでは作ることなど決してできない世界――大いなる一つの世界を、本シリーズを読み解くことで体感できるだろう。
 最後に、良いとは言えない点を挙げてみたい。何度も述べた通り、戦闘シーンは全くもって申し分ないので、それだけで充分このシリーズには価値があるのだが、その代わりその裏に隠されている、物語としての面白さは、それら戦闘シーンに比べるとやや劣っているといわざるを得ない。まあ、とは言え、先ほども述べたとおり複雑を極める世界観と人間関係には興奮すら覚える。本作品『フィアレス』においても、本編において未だ謎を多く残すキーキャラクターたちの若き頃が描かれている。ファンとしてはやはりなんともいえない魅力を放っているのだ。是非皆さんも、このシリーズのファンとなってもらいたい。そして、この世界の素晴らしさを体感してもらいたい。私はそう願う。
 最近、このシリーズの刊行スピードが急激に衰え、本書においても初期の段階で製作されたものを多く加えたり次回予告が無かったりと著者の疲れが顕著である。ファンとしても不安きわまりないが、是非とも頑張って次なる作品を刊行していただきたいと思う。
 でわでわ、長文失礼致しました。freebirdでした。
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