遠征王と隻腕の銀騎士 運命よ、その血杯を仰げ
|
|
遠征王シリーズの最終巻。
硬そうに見えて、でも柔らかくて、でもやっぱり硬いんです。 硬そうに見えるのは、文章。 後書きで高殿氏ご本人も気にされているように、漢字の含有率も高く、文語として整っている印象が強い文章です。私には。 でも、主人公男装の女王様、温泉が大好きだったり、花園を持ってたり、市井で女の子口説いたり何だか笑えます。(元)騎士団長に付き従う筋肉コック集団の忠誠ぶりの可笑しさは、このシリーズの名物だったりします。 そういう、硬い文章が綴る、壊れたような人物の描写が間だ間だに挟まって、文章の硬さを和らげています。 でもでも、やっぱり硬いのです。 それは作品に一本、太い柱があるから。 非常にテーマが明確です。 この物語は、主人公の女王様アイオリアの、自立の物語だと私は読みました。 王として即位するには、王の血統に繋がることが必須の王国で、アイオリアの血は薄く、それ故に本来受けるべき愛情を得ることが出来なかった。 誰かに必要とされること。王として王国に、人民に必要とされること。最愛の従姉妹に必要とされること。それが彼女の生きる意味だった。 だからこそ、死を求められれば容易に与えてしまう、それほど不安定な彼女が、過去の剄から開放され、最後に自ら欲するものを見つけ、そして旅立つことが出来た。
『運命よ、その血杯を仰げ』 は、そんなお話の、ラストを飾る一冊です。
ジュブナイルの典型的な物語構造を持つ話ではあるのですが、硬軟なコントラストが魅力的で、シリーズを楽しく読み切ることができました。
そして、もう一つ、この物語で語りたいこと。 それは、王の構造です。 遠征王シリーズは、パルメニア国の中世を描いた話とするなら、前シリーズは近世なのでしょうか? 主人公の王が、自分の存在意義について悩む話で、ある「遠征王シリーズ」とある意味共通する構造を持つ話ではあるのですが、中世の王アイオリアは「血統」に悩み、近世の王アルフォンスは王としての「執政能力」の有無についての悩みが、物語の柱でありました。 中世から近世への王の歴史的変遷は「王の資質が神から与えられる王の奇跡の時代から、王個人の能力の時代へ。」とまとめることができるのですが、高殿氏の描くパルメニアの王は、まさしくこのように変化していて、ファンタジーとはいえ、歴史を描く以上、現実の歴史にも目配せをして物語世界を構築しているという点でも非常に説得力があって、読んでいてワクワクする物語です。
書店での取り扱いの少ないマイナーレーベルの、更にマイナーな作品ではありますが、お勧めです。埋もれてしまうのがもったいない作品です。
|
(この作品の書評を見る)
|
魔女の結婚 星降る詩はめぐる
|
|
ここ一年で読み始めたラノベシリーズで、かなりのお気に入り。
まだ、シリーズ全てを読了しておりませんが、『星降る詩はめぐる』を読んで、エレインがここまで成長したんだと、感慨深かかったです。
女の子の結婚願望、あるいはいつか白馬の王子様がという夢が、只の夢物語ではなく、現実に持つ意味をエレインが理解し始めたのかなぁ、大人になったなぁ、と。 特にエレインの結婚には二重の意味が込められていて、その仕掛けがこのシリーズの魅力だと思っているので、余計にクルものがありました。
|
(この作品の書評を見る)
|
流血女神伝 女神の花嫁 中編
|
|
ネットの海を徘徊していると、『流血女神伝』は面白い、ということで評価は定まっているようです。 私も、「面白いぞ!」 ということで、一票を。
本編主人公の「カリエ」のジェットコースター人生は、目が離せないのですが、彼女を陰に日向に守る無敵の美女「ラクリゼ」、彼女の生い立ちも、実は目が離せないジェットコースター人生だったというお話。
ラクリゼの、本編からは想像できない余裕がない性格故に、彼女の浮き沈みは読んでいて痛いほどです。 彼女がその異能の力と引き替えに得たものの重さの意味が、この中編で明かになります。 物語本編とも関わる後編の展開よりも、この選択の重さが私の心に響くものがありました。陳腐な言葉ですが。そうやって彼女は剣の腕前だけではない強さを身につけたのだな、と。
単独としても充分面白いのですが、本編と相まって『流血女神伝』の物語世界に厚みを与えて、相乗効果でますます面白く感じます。 |
(この作品の書評を見る)
|
マリア様がみてる レディ、GO!
|
|
先代薔薇様が卒業されてから、今ひとつピリッとしなかった『マリみて』。久しぶりに面白かったです。
ラストの祥子様の殺し文句が・・・ 良いです。 祐巳の妹問題で揺れる中で、物語を貫く祥子と祐巳の絆が、学園生活の中で再確認できて、やはり『マリみて』はこうじゃなくちゃ、と。
とはいえ、先代薔薇様が卒業されたように、祥子様方が卒業するまであと僅か。高校の3年間は永遠ではなく、最愛のお姉さまから自立して、妹とともに歩んでこそ祐巳の成長がるのであって、この僅かな時間に、物語がどう展開するのか、目が離せません。
発売日を忘れないように。買い逃さないように。
|
(この作品の書評を見る)
|
英国妖異譚 5 死者の灯す火
|
|
ホワイトハート文庫では、この『英国妖異譚』が一押し。
パブリックスクール独特(と思われる)、ややこしい人間関係の中で、確かに仲間を思い遣る関係があって、それと死後の魂や妖精・精霊が関わって起こる事件の物語は、どの話も端正で趣深いものがあります。 単なるキャラ萌えに留まらないところが良いです。
主人公と亡くなった友人との交友関係が特に印象的でした。 |
(この作品の書評を見る)
|