対象
本稿では、近親愛として「兄妹」及び「姉弟」間の恋愛について論じます。
「父娘」「母息子」「叔父姪」「叔母甥」etc...といったところは対象外としています。もちろんいくつかは通用する部分もあるかと思いますが、基本的には想定していません。
これは単に僕の趣味の問題です(苦笑)。
「兄妹」及び「姉弟」とは 〜その定義〜
まずは辞書的な定義を調べてみましょう(goo辞書 国語辞典より)。
- あに【兄】
- 同じ親から生まれた年上の男。
- いもうと【妹】
- 同じ親から生まれた年下の女。
- あね【姉】
- 同じ親から生まれた年上の女。
- おとうと【弟】
- 同じ親から生まれた年下の男。
- けいまい【兄妹】
- あにといもうと。
- してい【姉弟】
- あねとおとうと。
以上のように、「同じ親から生まれた」男女のことであることがわかります。
ただし物語としての近親愛を考えるとき、この定義では不十分であると考えます。それでは兄妹(もしくは姉弟)をどのように定義すべきでしょうか。
ここでは次のように考えることとします。
- 相手を兄妹(もしくは姉弟)として認識していること。
- 社会的に兄妹(もしくは姉弟)として認識されていること。
最低限、このどちらかが満たされていれば「物語としての近親愛」を構成することが出来ると考えます。逆に言えば、例え本当に血縁関係にあったとしても、互いに兄妹(もしくは姉弟)として認識していず、社会的にもそう認識されていない男女であった場合、その恋愛を語ってもけして近親愛の物語になり得ません。
後述しますが、近親愛とは認識の物語であるからです。
近親愛における障害
近親間の恋愛には必ず障害がつき物です。
その障害をいくつかの傾向でまとめると、おおよそ次のものに分類できるのではないかと思います。
- 近親愛を是としない道徳観からくる自己嫌悪
「こんな想いを抱く自分は、どこかおかしいのではないだろうか」等の、自分に対する内罰的な感情。
- 家族に対する罪悪感
自己嫌悪のケースと同じく、道徳観からくるが、それが内向きではなく外向きに出た場合。または、期待されている社会的な責務(この場合結婚することや子供を作ること)を全うすることができないことの後ろめたさ。または、ばれた場合に家族にも、社会的な立場を失わせかねないという懸念。
- 社会的な立場を喪失することへ恐怖感
周囲(第三者)にばれた場合に、自分の社会的な立場が失われてしまうという可能性についての恐怖感。
- 相手との感情のギャップに対するもどかしさや諦観
相手はこちらを「家族」と認識しているのに、一方的に恋情を募らせていることに対するもどかしさや諦観。これは、実際に相手がどう思っているのかは、あまり関係がない。
これらを見てみると、ある共通項があることがわかります。
どれも物理的な障害ではなく、心理的な障害であるということ。基本的に当事者がどう認識しているかという問題だということ。
つまりこれが、「近親愛とは認識の物語である」と表現した所以です。
小説という媒体
漫画や音楽、映画、ゲーム等々、他の著作物に比べて、小説というのは制限の多い媒体です。
例えば漫画では文字以外に絵やコマ割りといった視覚情報が、音楽では聴覚情報(+歌詞という文字情報)が利用できます。映画やゲームは視覚聴覚を総合的に利用します。
それに対し、小説は基本的に文字情報しか利用できません(もちろん挿絵が用いられることもありますが、全ページに付けられるわけではありません)。映像や音といった文字以外の情報は、すべて想像させることで補う必要があります。
そのため、読者に統一的なイメージを喚起させるのは容易ではありません。
しかし逆に、ビジュアルを伴わないが故に、心理描写に長けるということも言えます。内心で思っていることをを記述する際に、特に制限がありませんので比較的容易に心理描写を記述することが出来ます。
これが例えば漫画の場合、長々と文章で説明しては画面がうるさくなってしまう可能性があります(よって、絵や動きで心理描写を表す必要が出てくる)。
翻って近親愛の特徴を確認しましょう。
前述のように、近親愛における障害とは、その全てが心理的なものです。
よって、心理描写を特異とする小説と言う媒体は、心理的障害を特徴とする近親愛の物語を描くのに向いている、ということが言えるのではないでしょうか。
要するに……?
ここまで紙面を割いておきつつアレですが。
要は無理矢理な三段論法で、「近親愛を真面目に扱うのに比較的向いている媒体だと思うので、もっとそういう作品が出てこないかなー」と言いたいだけなんですね(苦笑)。
ライトノベル(対象作品)における兄妹及び姉弟の関係
最後に、今回の投票における、対象作品内の兄妹及び姉弟をまとめてみました。次に示す表を参照してください。
書籍データ
| 人物データ
| 感情 →
| 感情 ←
|
出版社
| 作者
| タイトル
| 妹/姉
| 兄/弟
| 関係
| 恋情
| 家族愛
| 恋情
| 家族愛
|
電撃文庫 |
秋山瑞人 |
イリヤの空、UFOの夏 |
浅羽夕子 |
浅羽直之 |
実妹 |
★ |
★★ |
★ |
★★ |
電撃文庫 |
今田隆文 |
Astral |
須玉柚 |
須玉明 |
義妹 |
★★★ |
★ |
★ |
★★ |
電撃文庫 |
うえお久光 |
悪魔のミカタ |
堂島亜鳥 |
堂島昴 |
悪魔 |
★★ |
★★ |
★ |
★★★ |
電撃文庫 |
沖田雅 |
先輩とぼく |
山城一美 |
山城一 |
実姉 |
★ |
★ |
★ |
★ |
電撃文庫 |
雑破業 |
おねがい☆ツインズ |
宮藤深衣奈 |
神城麻郁 |
? |
★★★ |
★★ |
★★ |
★★★ |
電撃文庫 |
雑破業 |
おねがい☆ツインズ |
小野寺樺恋 |
神城麻郁 |
? |
★★★ |
★★ |
★★ |
★★★ |
電撃文庫 |
スズキヒサシ |
正しい怪異の祓い方 |
成田倫子 |
成田綾 |
義姉 |
★ |
★★ |
★★ |
★★ |
電撃文庫 |
谷川流 |
学校を出よう! |
高崎春奈 |
高崎佳由季 |
実妹 |
★★★ |
★ |
★ |
★★ |
電撃文庫 |
谷川流 |
学校を出よう! |
高崎若菜 |
高崎佳由季 |
実妹 |
★★ |
★★ |
★ |
★★ |
電撃文庫 |
藤原祐 |
ルナティック・ムーン |
ルル |
ルナ |
義姉 |
★ |
★★★ |
★★ |
★★ |
電撃文庫 |
葉山透 |
9S |
真目麻耶 |
坂上闘真 |
義妹 |
★★ |
★★★ |
★ |
★★★ |
富士見ファンタジア文庫 |
秋田禎信 |
魔術師オーフェンはぐれ旅 |
レティシャ・マクレディ |
キリランシェロ |
義姉 |
★★ |
★★★ |
★ |
★★★ |
富士見ファンタジア文庫 |
秋田禎信 |
魔術師オーフェンはぐれ旅 |
アザリー |
キリランシェロ |
義姉 |
★ |
★★★ |
★ |
★★★ |
富士見ファンタジア文庫 |
川口大介 |
拝啓、姉上さま |
メティア・クルーロル |
セリオス・クルーロル |
実姉 |
★ |
★★★ |
★ |
★★★ |
富士見ファンタジア文庫 |
榊一郎 |
スクラップド・プリンセス |
パシフィカ・カスール |
シャノン・カスール |
義妹 |
★★ |
★★★ |
★★ |
★★★ |
富士見ファンタジア文庫 |
三田誠 |
スプラッシュ! |
ヒルダ・ツァルクダイフ |
ロキ・ツァルクダイフ |
実姉 |
★★ |
★★ |
★★★ |
★★ |
富士見ミステリー文庫 |
新井輝 |
Room No.1301 |
絹川蛍子 |
絹川健一 |
実姉 |
★★ |
★★ |
★ |
★★ |
富士見ミステリー文庫 |
壱乗寺かるた |
さよならトロイメライ |
琴ちゃん |
藤倉冬麻 |
義妹? |
★ |
★ |
★ |
★ |
富士見ミステリー文庫 |
南房秀久 |
ANGEL |
日向舞夢 |
日向優 |
義姉 |
★★ |
★★ |
★★ |
★ |
角川スニーカー文庫 |
あおしまたかし |
デモンズ・クラッシュ! |
ティア |
キバ |
実妹 |
★ |
★★ |
★★★ |
★★ |
角川スニーカー文庫 |
椎野美由貴 |
バイトでウィザード |
一条豊 |
一条京介 |
実妹 |
★ |
★★ |
★ |
★ |
角川スニーカー文庫 |
谷川流 |
涼宮ハルヒの〜 |
妹 |
キョン |
実妹 |
★ |
★ |
★ |
★ |
ファミ通文庫 |
葛西伸哉 |
アニレオン |
阿仁谷舞美 |
阿仁谷圭一 |
実妹 |
★★★ |
★ |
★ |
★★ |
角川ビーンズ文庫 |
喜多みどり |
天空の剣 |
ウィルゴ |
シルウィル |
実妹 |
★★ |
★★★ |
★★ |
★★★ |
先頭の三項目は書籍データ、続く三項目は人物データを示します。人物はすべて兄妹もしくは姉弟を、「女性側」「男性側」「関係」の順で記載します。関係欄は、その二人が実の兄妹もしくは姉弟であるのか、それとも義理の関係であるのかを主に記述します。
感情欄は、最初の二項目が女性側から男性側への感情、続く二項目が男性側から女性側への感情を示します。
恋情の評価は、「星一つ」が「恋愛感情は殆ど存在しない」ことを、「星二つ」が「恋愛感情がやや見て取れる」ことを、「星三つ」が「確実に恋愛感情が存在する(またはそれが物語の主軸になっている)」ことを意味します。
同様に、家族愛の評価では、「星一つ」が「家族としての情が薄い」ことを、「星二つ」が「家族として気にかけている様子が見て取れる」ことを、「星三つ」が「家族として大切に思っている」ことを意味します。
それぞれの評価は、あくまでも独断に基づいていて、必ずしも公正なデータであることを保証しません。また、僕自身が読んだ物のみを評価しているので、これ以外にも兄妹や姉弟の登場する作品がある可能性もあります(特にコバルト以外の女性向け側)。
表を見るとわかりますが、傾向的に、恋情は女性側に強く、家族愛は男性側に強く現れています。しかし、どちら側も恋情が星三つというパターンは無く(三つと二つというものが三作品)、あまり「兄妹間(もしくは姉弟間)の恋愛」を真正面から主軸に置いている作品は多くないようです。
また、昨今の妹ブームに乗って、コメディ要素として利用しているもの(デモンズ・クラッシュ及びアニレオンが該当)もあるようですね。
▼プロフィール
永山祐介
Blowin' in the wind管理人。
URL : http://www.netlaputa.ne.jp/~u-suke/index.html