いま思い出してもいちばんゾッとしたのは、「ファンレター」にまじって、なにやら分厚くフカフカしたデカめの封筒が届いたときのこと。「あーら、ひょっとしてTシャツとかでも送ってくださったのかしら?」とるんるん気分であけてみたら……わたくしめの本が……たしかおかみきの一冊めだったかと思いますが、メチャクチャに切り刻まれ、しかも、「灯油」か「ガソリン」のようなものをうかけられているのでした。その切り刻みかたがねぇ、また、「ハサミでやったな」ってはっきりわかるものなのですね。カッターとか、ムカシ学校によくあった「裁断機」とかそーゆーもんで「バッサリ」一発ならまだ判るんですけど……文庫って、ハサミで切ろうと思うと、けっこうたいへんですよお。ちからいります。根性もいります。手が痛くなりますよう。それをやって、ほんとにこまかくコナゴナに近くなるまでやりぬいて、しかも、なんだかわかんないけど「揮発性」のみょーな物体をかけた。それほどの「負のエネルギー」を、わたしのいったいなにが誘発してしまったのでしょう? ……中にはなんの「手紙」をはいってませんでしたが、「差出人」のとこには、住所とお名前が明記してあったんですが(それがほんとかどうかははかりしれませんが)これが、例の分厚い住所録を調べても見当たらないし、いくら考えても、ぜんぜんまったく少しも何にも、こころあたりがないんですねぇ。 |
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以来、「すまんが、わたしあてのレターは必ず開封して、ブキミなもんとか、いやなもんとか、わたしが見るとおちこみそうな悪口とかがハイってないか確認して、ないやつだけ送ってくれ。わたしに見せないほうがいいだろうと思うものは、そこで握りつぶして、そういうもんがあったということも、こっちには一切知らせないでくれ」と頼むようにしました。ズルですが。そうでもしないと自衛できませんですもん。なにしろ原稿の真っ最中とかに、いきなり落ち込んじゃったりしようもんなら、シメキリやぶりますから。 |
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知らない男の子がたってました。 |
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さて、例によって例のごとく、いかにもババアのくりごとらしく、ハナシは時系列をあっちいったりこっちきたりするわけですが、ここでいちおう事実をおさらいしなおしておきましょう。 |
小室みつ子 作詞家・小説家。「TM NETWORK」「鈴木あみ」など数多くの作詞を担当する。「西門加里」名義で作詞していたことも。 公式 : miccos.com |
後年、たとえばイタリア語ぺらぺらの小室みつ子ちゃんにつれてってもらって北イタリアを旅したときに、この「なぜか正解に到達する自動翻訳機能」がすごい威力を発揮しました。ある駅で、みっこがタバコを取り出そうとした瞬間、いきなり、壁に描かれている文字が目にとびこんできて「ねーみっこ、あそこに、ノンフマーレ、ってかいてあるんだけど、あれなに?」「禁煙!」ぽろりとタバコを落とすみっこ。「なんでわかるのおー!」「しらん。なんか目にとびこんできた」。みっこと、旅先のひとがしゃべってるのをボーッときいていると、だんだん「何の話をしているかなんとなくわかってくる」。で、みっこが、たまさか知らない小難しい単語を連発する相手に困った顔してクビをひねりだすと、「あっちにゲーテのお墓があるけど、みにいきたいか、とかなんとかいってるんじゃないかと思うんだけど」とかいって、「そうだわ! それならハナシがつながる。なんであんたにわかるのよお!」と驚嘆されたりしましたです。 |
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ジマンたらしくてすみません。 |
浅葉未来・西在家朱海 『丘の家のミッキー』の主人公。 |
とはいえ、言語力というのは、コトバを商売道具にしてシゴトをする以上、そりゃあ磨きに磨いておくにこしたことはないもの。イザというときにサッと抜いて勝負ができるよう、いつもカタナの手入れをシテオカナアカン、ようなものですね。ふさわしいジンブツがふさわしいときに口にするべきことばの「ストック」つまり「語彙」を増やしておくためには、ようするに、先達の(まがいものでない)作品を山ほど見て聞いて味わって、しっかり血肉にしておく必要がある。あるいは、「ほんとうの名前」は魔法である、と魔法方面ではいつも言う(笑)。ふさわしいジンブツにはふさわしい名前をつけなければ、そいつはそいつになれないのです。浅葉未来はアサバミクだったからああいうやつだったんで、西在家朱海くんはニシザイケアケミくんだったから、ああいうやつになった。フュンフはフュンフ(「5」という意味)なのでふだんはボーッと末っ子のフュンフなんだけど、必要なときには本名「ケイオス・デュレント・ペンドラゴン」としてふるまう。ちなみにケイオスはもちろん「カオス」ですね。ドラクエもんでも、あっしは既にきまってしまっているキャラはしょうがないので、せめて主人公には、「いかめしい」名前つけたりとかしてますです。ちっちゃなこどもの時には「リュカ」と呼ばれているけれども、実は(当初は本人も知らないけど、大国の王子さまであとつぎなので)リュケイロム・エル・ケル・グランバニア、なんつー、ごたいそーな名前をもってたりするわけです。ほんと、名前はとってもとっても大事ですよ。 |
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時系列のおさらいをするはずがなんでこうなるんだ。 |
(C)集英社 「ガラスのスニーカー」 著 久美佐織 |
幸いにも、その三年はコバルトが極端な右肩上がりの成長をやっている時で、わたしもかすかなながらオコボレにあずかって、毎月7万円ほどのヤチンを払い、光熱費を払っていくことができたのでした。まだ文庫は二冊かそこらしか出てなくて、ぜんぜんまったく無名だったですけど。ほら、学研でバイトしたりとか。 |
藤臣柊子 漫画化。別冊フレンドから少女マンガ家としてデビュー。後にギャグ漫画を描くようになり、エッセイ漫画や文字のエッセイを書き好評を得る。 公式 : www.fujiomi.com |
はいはーい! とひきうけたわたしは、その頃からナカヨシになっていた(パーティーでみかけてヒトメボレした。前からそのひとのマンガはカッコいいとおもっていてペンネームを覚えていて、ちかくのひとに「あのカワイイの、誰?」ときいたらフジオミシュウコさんよ、といわれて、猛ダッシュでかけていって「おともだちになってください!」と頼んだのであった)柊子といっしょに、アホアホエッセイ『やだ! はずかしい』の連載を開始することになるのです。いやーたのしかったです。毎月好きなだけヨタをかいてたんですから。柊子のマンガもかわいかったし。んで、うちあわせと称して、ビーラブの担当女性「甲斐さん」とその部下の男性と四人で六本木はイモ洗い坂のとあるカラオケ屋にくりだしては、歌いまくって騒ぎまくっていたのでした。バブルのはじまりのころだしねぇ。ちなみにそのカラオケ屋さん(正確にいえば、バー)のもうひとくみの常連さんが中央競馬会さまつまりJRA(ジャパン・レッド・アーミーと読んではいけない)で、いっつも背広すがたのなんだかオカネモチそうなかっこいいおにいさんたちがいて、わしらアホなふたりぐみが「ながさきぃんわー、きぉおおもぉぉぉぉ、あ、め、えだぁたぁぁぁぁ(←柊子のもちうた)」とをやるとヤンヤと喜んでくださったものだったりします。のち、ていうか去年、柊子があたらしくなった府中競馬場の案内小冊子の取材と絵を担当したりしたのもなんつーか、遠い遠い縁なんでしょうか? |
大原まり子 SF作家。『ハイブリッド・チャイルド』(星雲賞)など文学賞の受賞作があまりに多い。日本SF作家クラブ会長を1999年9月から2年間つとめる。 公式 : アクアプラネット |
楽しかったですー、ビーラブ時代。なにしろレディコミのはじめみたいなもんだったので、いろんなことがありました。沖縄旅行(ご優待サービス価格)の企画がもちあがったのにヒトがあつまんないんだよーといわれて、すかさず、「なかま」をつのってでかけていったり。そうそう、このとき、おーちゃん大原まり子ちゃんもいっしょにいってるんだよな。しかし、ビーラブの編集長がかわったら、わしらのページは「クビ」になってしまって、終わってしまいました。一冊にまとめられないこともない分量はあったのですが、需要がなかったのか、単行本化のハナシはまっっっったくありませんでした。わりと面白いことやってたとおもうんだけどな。ちゃんと「毎回のそのページ」はきりとってとってあるので、もしかしたらそのうちサイトかなんかで紹介しますよ。なにせハナシが古いので、笑ってもらえるかどうかわかんないけど。 で……。 |
豊田有恒 SF界の重鎮。数多くのSFアニメにも携わる。日本SF作家クラブ会長を歴任。古代史を中心とした著作も多い。 関連 : 豊田有恒先生のページ 星敬 SF研究家。在学中より豊田有恒氏に師事。ジュニア小説界にも造詣が深く、ファンタジーロマン大賞第1回〜第4回の選考委員を担当。 岬兄悟 SF作家。「頭上の脅威」でデビュー。長編、短編、ショート・ショートなどの他に、パソコン関係のエッセイ本や編纂集など著作多数。奥様は大原まり子氏。 公式 : ALBATROSS 火浦功 SF作家。「瘤弁慶二〇〇一」でデビュー。ご本人が「すちゃらか小説」と銘打つ軽妙な文体とユーモアで人気を集め、狂信的なファンを生んでいる。 ゆうきまさみ 漫画家。『究極超人あ〜る』、『機動警察パトレイバー』などで人気を博す。近刊に『鉄腕バーディー』『ゆうきまさみのはてしない物語』がある。 出淵裕 デザイナー、監督。『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』のメカデザインなど多数手がける。『ラーゼフォン』を世に送り出すなど幅広く活躍。 |
パラクリについてはだいぶ前にちらっと書きました。 |
鹿野司 サイエンスライター。SF、コンピュータ関連について鋭い指摘を行い、絶大な信頼を勝ち得ている。 |
同世代作家があんまりオオゼイいない……と思っていたそのさなか、わたしはここでいきなり、ものすごいオオゼイの「同世代」にあってしまったわけですね。そんなにうんといりびたっていたわけじゃなかったけど……「科学者」鹿野司さんにパソコンをおそわったり、シモキタじゅうのオコノミ屋さんを制覇したり、いろいろやったなぁ。ついに辛抱たまらなくなって富士通FM'7を買い、ぴー、ぴぷー、ぷるるるる……と「データレコーダ(という名のカセットテープレコーダー)」のつぶやきを五分ばかりきいてから、「なんとかBEE」という、ひたすら蜂を打ち落とすというゲームなどに熱中、おーちゃんをつれてきてそれをさせて彼女もパソコン道にひきこんでしまったり、シモキタでいっしょに飲んでたハヤカワ(当時)の加藤(いまはコンプティークかな)と、まったく同い年であるばかりか、まったく同じ甲斐バンドの武道館コンサートで、わたしは観客、カレは「バイトのガードマンつまり客を押し返す係」をやっていたことを知っておもわず感動で抱き合ってしまったり、♪ヒーロー、ヒーローになるとき、アーハー、それはいまー! と、アパートの隣のひとから文句つけられそうな声でうたいまくったりしたなぁ。そしてわたしらは語り合いました。おれたちはまだまだ路地裏のチンピラ(「路地裏の少年」! ハマショー浜田省吾さまもだいだいだいだいだいすきだったですー!)さ。でも、あすはヒノキになろう。あすなろう! ……アー恥ずかしい、キタガワエリコじゃあるまいし。 |
「愛に時間を」 著 ロバート・A・ハインライン 早川書房 (1984) (C)東京創元社 1969 「異星の客」 著 ロバート・A・ハインライン →bk1 →ama →楽天 |
『SFマガジン』との出会いは、中学生の頃で、マタイトコにあたる親戚の男子シンちゃんの家にハハオヤにつれられてアソビにいったらそいつの本棚にそれがズラーっとならんでいて、「こんなおとなっぽい本をよんでるのか!」と驚いた、というのが最初でした。 |
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でね。コバルトには、素子ちゃんがいたでしょ。 |
『あけめやみ・とじめやみ』 著 久美沙織 →ama |
幸いにも、コバルト編集部は、SFマガジンに短編を発表することに関しては、まったくぜんぜんなんにも関与してきませんでした。 でも、自信、まるでなかったんです。 |
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のち、ドラクエシリーズで、何度も「世界を救うため、悪の大王と戦う」経験をイヤというほど積んだわたしですが、そのたびに「勇者」になりきり、「勇者」に憑依されたような状態になっていましたが、それは、たしかに苦しかったけど、ものすげー喜びでもありました。そーゆーふーにうまれちゃったんだからしょうがねーす。 |
大森望 翻訳家・評論家。元は新潮社文庫編集部に勤務、久美沙織氏の担当編集。多くの文学賞専攻にも関わる。 公式 : 大森望のSFページ 糸井重里 コピーライター、エッセイスト。「東京糸井重里事務所」代表。活動多彩、著作多数。 公式 : ほぼ日刊イトイ新聞 糸井重里さんがゲーム… 『MOTHER』のこと。敵を殺さない、などの新機軸で評判なった。 『MOTHER』 著 久美沙織 新潮社 (1989) →ama 『綿の国星』 著 大島弓子 →bk1 →ama →楽天 |
いったいわたしはどうしたらいいの。 Vをプレイし、感動のあまりひっくりかえったわたしは、めるちゃんとヤベヤベという名のとある編集とともにエニックス(当時。小滝橋通り……いまハングルとか謎のタイ文字とかでみちあふれてるあそこです……の裏通りにあった)をおとずれ、ドラクエダイスキ本みたいなのを書かせてくれないかと頼み……ことわられます。ドラクエは、キャラなどの著作権問題が複雑で、そーかんたんにかってなことをされてはこまると。でも……ワタナベくんは……守護天使3です……わたしの『MOTHER』を読んでくれてました。 ついにわたしは、「ファンタジー」の扉にムンズととりついたのです。 原稿受取日 2004.3.31
公開日 2004.5.3 『ライトノベルファンパーティー』にもどる |