【これまでの作品について】

──じゃあ、各作品について聞いていきたいと思うんですけども。長谷さんの方から一作目、※楽園はSF設定だったと思うんですけど、今話を伺っていたら、テーブルトークの方からきてますよね。何故そこでいきなりSFだったのかっていうのを。
長:これも、ぶっちゃけたうえにあんまり笑えない話で申し訳ないんですけど。ちょうどねそのころ病気だったって言ったじゃないですか。その病気が意外と難物だったっていう。生活習慣、食生活なんですけど、がらっと変えないといけないくらいおかしくなっちゃいまして。それでしかも治らんって言われたんですよ。一応死ぬようなものじゃないんですけど、一生付きあってけっていうのが実はあって。しかも、初期の時期に病気がなんだかよくわからんっていう時期が一時期あって、そんなんでもうかなりヤサグレ状態だったんです。
──検査してもわからず。
長:もうわけわからんっていう。さっきも言ったみたいな、「俺就職どうすんねん」っていう本当にどうにもならん状態が重なって。現実的な話を書きたくなかったんですよ。本当にSF書くのってそんな理由でいいのかよっていう感じなんですけど。本当に現実的な話は本当に書きたくなかったんですよその時。まあ非現実でも夢のような世界っていうとなんですけど、夢のような世界っていうとまたそれも自分の中で信じられなくって、しょうないからやっぱり現実でなくとも現実から離れられない状態ではありつつも、現実的なものは書きたくないっていう──。現実的でないものをやっぱり、けっこうそこそ理屈っぽい性格なんで、そんなにがちがちに理屈の多い人間でもないにしろまあ理屈無いと嫌だったんで、理屈をつけてイメージに理屈をつけてやったらSFだった。こんなんでいいのかなっていう感じで。
──いや、いいでしょう。
長:ほんとにSFを意識したっていうよりは、現実を書きたくなくって。
──そこから出発して?
長:そこから出発して、現実を書かない理屈をつけてたら、それってSFだったっていう感じで。それってSFで良いですか?
──いいです。
長:まあそんな感じで。
──ファンタジーはもう本当に?
長:ファンタジーは理屈通んないじゃないですか。どこかで理屈じゃないところをやらなきゃいけなくって、その"理屈でないところを通さないとけない世界"に対する強固な信頼感というか、その世界に対する信頼感みたいなものが持てるほど、僕のその当時は強固でなかったっていう。理屈がないと信じれなかったっていう感じですね。
──自分自身がその作品世界を信じれなかったって。
長:信じられないって。まあなんか辛い状態で書くのも嫌やなっていう感じなんで。
──ロボットが出てくるんですけど。そのへんも関係してますか。
長:ありますね。もうその当時が一番ロボットにロボットづいてた時期ですね。ぶっちゃけ、「今ここに※メーテルが来たらアンドロメダまで行くよって。もう病気も何も無い機械の体にしてくれよおい」っていうくらいの。一秒も迷わないって自信ありました。僕、乗り物酔いすごいんですけど。電車酔いもすごいけど行くよっていうぐらいの勢いでした、その当時って。だからもう生身の人間を書きたくなかったていえば書きたくなかったんですよ。正直言って、今にして思えば。アンドロメダみたいな、人間の果てみたいな世界が楽だったんですよ。
──でもその辺の葛藤とかも描かれてますよね。
長:まあそう望んでも、(そんなことに関わり無く現実の体は)結局痛いですし苦しいですからもうしゃあないっていう。「生身じゃないよ万歳!」って言ったら評価得れないことはもうわかってたんで。「俺と一緒に銀河鉄道に行って、銀河鉄道に乗ってアンドロメダに行って万歳!」では、評価得れないってことはわかってたし、評価得れないもの最初から書くのもどうかなっていうスケベ心があったし。それはそれで書いている段階で、あんまりマシン万歳で終わったら、自分の中でたぶん三年後くらいに読み直したら痛いものになってるんやろうなっていう嫌な冷静さがありましたんで。
──まあその辺ちょっとしたものがあって?
長:ええ、三年か五年後に向けた嫌な安全装置が働いて、人間臭くなりました。一番人体とか人間の強さみたいなものを信じてなかった時期ですね。たぶん『楽園』を書いた時期って。
──有川さんは『塩の街』もSF、と。一応。
有:いやそれは。SFを書いたつもりはあまり無かったんですよね。『空の中』もSFのつもりはあんまりなくって。
──※それまでの十本とかはどういう傾向の?
有:でもなんかそういう世界観とかだけなんかSFっぽいかんじで。基本的にわたしは「っぽい」とか「〜風」なんで。
──でも読んできたものも、まあ笹本さんとか、『星を行く船』とか。
有:そのへんは、笹本さんとか新井さんとかその辺のなんていうか、あれですね。
──影響は?
有:新井さんや笹本さんの作品がすごく楽しかったんで、SF風の舞台設定が好きになっちゃったっていうか。
──『塩の街』はどこから?
有:基本的には、全部しょうもない思いつきから始まってるんですよ、わたしの話は。『塩の街』も塩害っていう言葉、知らなかったらけっこうインパクトがあるぞって。「塩の害ってなに?」ってかんじじゃないですか。知ってたら普通に内陸に海の塩分が吹き込んで農作物に害が、とか分かるんですけど、そういう前知識なしに想像したらこういう解釈も可能かなあって。
──それは神話っていうか。神話じゃなくて聖書とか?
有:気がついたらあんなような感じに。
長:僕的にもいろいろ聞きたいことあるのがやまやまなんですけど、無茶苦茶ネタ割っちゃいそうで。
──聞きなさい。
長:『塩の街』のネタを割っちゃうことに(と心配そうに観客側を見る)
有:あ。
──や、もう皆さん読んでますよ。
長:読まれてますよね?(と確認。曖昧な反応をする一同)やっぱり、『見てると感染する』というはったりの付け方が上手いなって。理屈じゃないはったりっていうか。理屈としてどうなんよ?って思いそうでも、成立しているはったりっていうのが有川さんはすごいなっていう感じで。
有:基本的に物を書くっていうのは真面目にホラを吹くことだと思ってます。
長:理屈的にどうよ?っていうふうに考えると、やっぱりわかんないっていえばわかんないんだけど、でもやっぱり納得するっていうか。『空の中』とか読んでても思ったんですけど。いや、まあ『空の中』は流石にきっと読んでない方が。まあ面白い作品なんでみなさん買ってください。
──でもSFってやっぱそういうところありますよね。どっかその新観点があるんですよね。
長:理屈のついた物語の階段を上っていく、リズムのところをちょっと歪めていってSFっていうものと。最終的にはぽんって飛躍してて、けど確かに理屈もあるように見える、実はどこかの点から、お前ら理屈の階段あるように思ってるけど本当は空気を上っているんだよっていうものと。そこんとこの空気の階段をのぼらせるみたいな感覚が、僕はそれ無いほうなんで、本当に羨ましい。
──階段作んないと気が済まないほうですか?
長:階段って作らないっていうか。僕的に作っているつもりなんですけど、無いっていわれたらそれまでのものなんですけど。作ってるつもりなんですけど、作っているつもりにならないとうまいとこ自分で回せない。
有:なんかこう、思いつかないと意味がない。
長:『空の中』のあれ(怪獣)も、やっぱ意外と説明しているようで説明していなかったりするんだけど、それでもガーンと納得するっていう。おお!って。
──いたんだって言われれば。
長:いたんだって言われれば、「うん、ああ確かに」っていう。そのつけかたがすごいなあって。表現的にすごい。
──長谷さんの語っていることはSFの基本みたいなところを言っていると思うんですけど。
有:ええ、あの平成版のガメラってありますが。あれの怪獣とかって嘘っぱちなんだけど、なんかあのフィルムの中は本当に怪獣のいる世界なんだなってイメージがあるじゃないですか。それはなんかこう他の作家さんとも話してたんですけど、自分のついた嘘を自分で本気で信じて書いたらその作品の中でほんとになるって。例えば※レギオン2って、
──(笑)
有:すみません、この話を始めるとわたしは本当に長いんですけど(笑)レギオン2でですね。薄野にガメラが来た時にですね。ガメラが歩くんですよ地上を。歩くガメラの近くを自衛隊員が匍匐前進で逃げるわけですよ。あれにもうすごいやられまして。よく考えたら体重何十トンもある怪獣が歩いてて、歩いててその足下を走って逃げられるわけが無いんですよ。だって局地的にすごい地震が起こっているようなもので。そしたらあそこを匍匐前進で逃げるってことにすごいあたりまえの発想なんだけど。それってガメラが本当に※体重が何十トンで体長が何十メートルでっていうのを本気で信じてないと出てこないじゃないですか。
──リアリティですね。
有:そういうところすごい憧れましたね、かっこいいなあって。そういう感覚っていうか、その精神を見習いたいっていうか。
──『塩の街』だったら、その※見てっていうのでじゃあ。SFの。
有:わたしの場合はむしろその状況ですとか、その状況にその人がいたらどう考える?っていうところでわたしなりのリアリティを出したいんですね。
──人の心を?
有:そうですね。最初に人ありきなんで、状況とか設定とかいうのはわたしにとっては添え物でしかなくって、その中でその人たちはどう思うだろうっていう、そこを真面目に考えたい。どんな異常な状況でもそこにいる人間が必死に物を思えばそれだけである程度のリアリティが出ると思うんですね。
──じゃあ、人間を書いていきたいっていう。こういう状況に陥ったらその人はどういう気持ちになって、どういう行動をとるのかっていうところを。
有:人が動いているところはそれだけでドラマなんで。
長:(ぼそっと)恋愛が。
(女性陣苦笑)
──いやでも、本当にお二人ともSFって意識してらっしゃらないんだけど、その方法論とか考え方とかそれがSFに近いもののように思うんですけど。
長:やっぱり、なんでしょうね。理屈をつけていくとやっぱりSFになっていくのかなっていう気がしますね。物語の中に書ける限界って、ある程度決まってるじゃないですか。物語の中のどのぐらいのセクション、どのぐらいの場所に、大体どれくらいのデータが詰め込めるって物理的限界の中で、理屈とか、何かがあった状況を丹念に書いていくとか、そういうことをしていくと自然とSFっぽい外見みたいなものを具えていくんじゃないかっていう気が。個人的にはしてますね。
有:ウソは本気でつかなきゃ意味がない、とは思ってます。それがSFの手法に合致するかどうかはわたしがSF詳しくないんで分からないですけど。
──まあ、みんなSFになってしまえばいいんだ……とか私は思うんですけど(笑)。

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