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秋津透さんの選



▼プロフィール

秋津透
作家。 代表作 魔獣戦士ルナ・ヴァルガー、星間特捜エンジェルバーズ、機獣神ブラスルーン、他。
ホームページは秋津洲企画

url : http://member.nifty.ne.jp/akitsushima/




対象作品内からのお薦め(すべてシリーズ作品です)
『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁   ハヤカワ文庫ja
『吉永さん家のガーゴイル』   田口仙年堂 ファミ通文庫
『封殺鬼』  霜島ケイ  小学館キャンバス文庫
『楽園の魔女たち』       樹川さとみ 集英社コバルト文庫
『刀京始末網』 森橋ビンゴ ファミ通文庫





コメント
 正直なところ、今年度刊行されたライトノベルの中で、私が目を通したものは、ほんの少数しかありません。ですから、独断と偏見を別にしても、かなり偏った選定になっていると思います。たぶん、他にも優れた作品は数多くあるでしょうから、来年度は、この企画を念頭に置いて、もう少し多くのライトノベルを読んでおこう、などと(実現できるかどうかは別にして)考えています。
 冲方氏の『マルドゥック・スクランブル』は、今年度の日本sf大賞受賞作です。ライトノベルの範疇に入れていいのかどうか少々悩みましたが、歴とした対象作品ですし、「すごい!」という点では群を抜いていると思ったので、筆頭に挙げました。キャラクターの際立ち方が強烈で、しかも凄まじいスピード感を伴って物語が進むため、読んでいくうちに振り回されるような眩惑と酩酊すら感じる力作です。三冊構成ですが、本来は一つの物語を出版上の都合で三つに分けてあるだけなので、三冊手元に揃えてから読みはじめた方が良いでしょう。いったん嵌まった場合、途中で先に読み進めない状態になるのは、精神衛生上、かなりきついと思います。
 田口氏の『吉永さん家のガーゴイル』は、明るく楽しいという形容がぴったりくる、上質のコメディタッチライトノベルです。今年度のファミ通えんため大賞受賞作(実は、私は、同賞選考委員の一人だったりします)なのですが、とても新人とは思えない技量が感じられます。既に続編が出ており、そちらも良い出来です。
 霜島氏の『封殺鬼』と樹川氏の『楽園の魔女たち』は、いずれも終盤のクライマックスにさしかかっている、長いシリーズ作品です。長いシリーズは、途中で構成がおかしくなったり、キャラクターが変質したりしがちなものですが、この両作品は、非常にきちんと構成をまとめ、キャラクターの個性をまっとうさせて終盤を盛り上げている希有な例だと思います。
 森橋氏の『刀京始末網』は、もともとファミ通えんため大賞でゲーム企画として受賞した設定を小説に転じたものですが、主人公や脇役たちの鮮烈なキャラクターが、私には非常に印象的でした。田口氏の作品ともども、あまり知られていないマイナーレーベルの傑作として推したいと思います。


出版時期を問わないお薦め

『ひとつ火の粉の雪の中』 秋田偵信 富士見ファンタジア文庫
『皓月に白き虎の啼く』  嬉野秋彦 集英社スーパーファンタジー文庫
『聖ベリアーズ騎士団!』 霜島ケイ 集英社スーパーファンタジー文庫
『妖神グルメ』 菊地秀行 ソノラマ文庫
『超革命的中学生集団』 平井和正 ハヤカワ文庫sf(角川文庫)

コメント
 出版時期を問わないのであれば、お薦めしたいライトノベルは数々ありますが力量のある作家の傑作であるにもかかわらず、比較的知られていないのではないかと思われるものを、五作ほど挙げておきます。
 秋田氏の『ひとつ火の粉の雪の中』と嬉野氏の『皓月に白き虎の啼く』は、両氏がそれぞれ新人賞を受賞したデビュー作です。いずれも、後年、両氏が飛ばす ヒット作とは、かなり趣が異なる作品ですが、力量の高さは、むしろはっきりと出ていると思います。
 霜島氏の『聖ベリアーズ騎士団!』は、いい意味で身も蓋もない、妙な具合に生活感あふれるファンタジーコメディです。ストレートに笑える傑作だったのに、 あまり注目されず、シリーズにもならずに一冊で終わってしまったのが残念です。  菊地氏の『妖神グルメ』は、いわゆるクトゥルーものですが、日本人作家の書いたクトゥルーものでは、最も巧緻で説得力のある作品だと私は思います。人間のスケールでは計れない超越存在として、クトゥルーをはじめとする邪神をきっちり描いておきながら、狂気を帯びた一人の天才が、ある意味、邪神を完全に凌駕する展開に痺れました。
 平井氏の『超革命的中学生集団』は、発表時期からすればジュブナイルsfに分類される作品でしょうが、その内容と永井豪氏のイラスト(角川文庫版は違うようですが)からすると、ほとんど元祖ライトノベルだろうと私は考えています。 そして、個人的な話になりますが、私はこの作品を読んだ時、「こういう小説がありなんだ!」と衝撃を受け、自分も、こういう小説を書き、好きなマンガ家にイラストをつけてもらいたいと本気で思ったのです。その結果、ライトノベル作家の私がいるわけですから、やっぱり、この作品は(少なくとも私にとっては)ライトノベルなのでしょう。