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へぽさんの選 「2003年度おすすめライトノベル(03年3月〜04年2月に発売した本)」 ▼プロフィール へぽい すみっこにある空間管理人。 url : http://sumikko2.hp.infoseek.co.jp/ 最初におすすめの本5冊を。 ・「魔術士オーフェンはぐれ旅」秋田禎信 富士見ファンタジア文庫(富士見書房) (最終巻「我が聖域に開け扉(下)」が03年9月発売) ・「銀盤カレイドスコープ」海原零 スーパーダッシュ文庫(集英社) (1、2巻が03年6月発売) ・「吉永さん家のガーゴイル」田口仙年堂 ファミ通文庫(エンターブレイン) (1巻が04年1月発売) ・「神様家族」桑島由一 mf文庫j(メディアファクトリー) (1巻が03年6月発売) ・「カラミティナイト」高瀬彼方 ハルキ文庫(角川春樹事務所) (3巻が04年1月に発売) 「魔術士オーフェン」について いまさらこれだけのメジャーな作品に対して、「このライトノベルがすごい!」なんて言っても意味のないことですが、5作品を選ぼうと思ったときに、やっぱり入れたくなってしまいました。オーフェンは、私をライトノベル好きに させた大きな要因となった小説の1つですから。 オーフェンの魅力は、なんといっても戦闘シーンがおもしろいことですね。独特な描写で描かれる、音声魔術(声を触媒とするため、声の届く範囲にしか魔法の効果がない)などを駆使した戦闘は、手に汗握りました。 終盤になるまで、物語の核心となる部分は、断片的にしか伝えらないため、少し分かりづらかった部分もあったのですが、そこをあらためて読み返して、どういうことだったのか自分で考えるのも、おもしろかったです。 本編も外伝も最終巻を迎えましたが、最後まで私の予想を範囲を超えた展開を見せてくれて、とても楽しめた作品でした。 もしもまだ読んだことがないという人は、是非読んでみてほしいですね。本編だけでも20冊あるので、量、質ともに満足できると思います。私的な感想ですが3巻あたりから、かなり盛り上がってくると思います。 「銀盤カレイドスコープ」について スポコン+コメディというだけでも珍しいのに、そこにフィギュアスケートという題材を使った画期的な作品。 いろいろなところでおもしろいとは聞いていましたが、たしかにおもしろい! この作品の魅力、それは「競技場面がおもしろいこと」。これはスポーツを題材とした作品で、最大の強みではないでしょうか。 フィギュアスケートなんてたまにテレビで見かけるくらいの私でも、この作品の競技場面では、タズサ(本作の主人公)が氷上で舞う情景がたしかに見えてきました。 そして、主人公のタズサのキャラクターが非常に立っているのがいいですね。彼女の勝気でプライドが高く、思ったことをそのまま言ってしまうという性質は、敵を多く作りやすいのですが、その中でもマスコミを完全に敵にしてしまんですよね。この「タズサ vs マスコミ」はこの作品のもう一つの大きな魅力になっていて、物語をおもしろくしています。マスコミは、タズサの敵という扱いなので、過剰に悪辣な存在として描かれますが、少なからずこの作品で描かれる負の要素はあるわけで、そのあたりも考えながら読むとさらに楽しめると思います。 タズサとピートの関係も最後までおもしろく、そして儚い感じが良かったと思います。 蛇足ですが、1巻と2巻は話の流れ的に、1セットになっているということを付け加えておきます。 「吉永さん家のガーゴイル」について 福引でガーゴイルが当たっちゃった。という感じで始まる物語。 なんといってもこの小説は、ガーゴイルというキャラクターに尽きます。 無骨もので命令に忠実で、それでいて強いというガーゴイルが、徐々に町内の人々、動物達、魂を持つもの達と交流することで、かたくなに守ろうとしていた使命「吉永家を守る」から、「町内の人々を守る」と変わっていく様は、とてもおもしろいです。 それと感じたのは、田口さんは、感動的場面をさらりと描くことが出来る作家だなということです。普通なら力が入りそうな場面(ページ数を費やしそうなところ)を、ほんとさらっと描いてしまうんですよね。これはなかなか新鮮でした。 普段ファミ通文庫をチェックしない人も、この良質なハートウォーミングストーリを是非お試しを〜。 期間外なので多くは書きませんが、2巻(04年3月発売)の出来も良かったです。 「神様家族」について 〈父親が神様で、母親が女神、姉と妹は女神候補、居候は天使。そんな家庭環境を持つ佐間太郎は、思ったことが何でも叶ってしまう生活に飽き飽き。そこで、好きになった女の子に自分の力だけでアタックすることを決意する。〉 という感じで始まるラブコメです。 家族全員のキャラクターが立っていて、とてもおもしろい仕上がりになっています。父親(神様)は、すぐ力を使って、佐間太郎の妄想を叶えてしまうし、母親はいつのまにか同じ布団に寝ていたりするほど、佐間太郎を溺愛(そんな母親のところに、ガールフレンドを連れていったりするエピソードもあります)。姉はいつも佐間太郎をからかい、おませな妹は、道具をつかって兄の好きな人の心を思うがままにしてあげようとしたりします。中でも重要な人物となる、天使のテンコは、感情が高ぶると頭から湯気がでてしまう体質で、それを佐間太郎がフォローしてあげたりする様子も実におもしろいです ただのラブコメかと思っていたら、終盤がらりと変えた雰囲気となり、驚かされました。読み終わってみると、すがすがしい気持ちにさせてくれる良作だと思います。 mf文庫jなんてあまり見たことないなという人も、是非読んでみてください。 ちなみに4巻まで出ていますが、1巻の出来が一番良いような気がします。 「カラミティナイト」について 〈内気な女子高生『沢村智美』は、《災禍の心臓》(カラミティハート)を巡る戦いに巻き込まれ、《災禍の騎士》(カラミティナイト)に選ばれてしまう。それは、生きるか死ぬかの戦いの始まりだった……〉 期間内だと3巻が該当するのですが、多くの人がこの作品自体を知らないような気がするので、シリーズ全体として良いところをあげます。 まず高瀬彼方さんの特徴である、緻密な心理描写は、ほんの少しの気持ちの行き違いをうまく描いていて、この作品でも大きな魅力となっています。特に智美の担任の先生『雪村和彦』の心理描写は読み応えあります。 そして物語の核心となるカラミティナイトですが、これはカラミティナイトごとに別々の力持っている設定になっています。智美の得た力は、「自分の創作していたファンタジー小説のキャラクターの力を持つことが出来ること」です。そして能力発動の条件は、「智美が自作していたキャラクターの人形を持つこと」。この発動条件が物語を非常に面白くしていています(智美はある事情で、7体ある人形の内6体を捨ててしまい、それを拾ったのは……という展開がおもしろい)。 智美はサイトを持っていて、そこでファンタジーの創作小説を書いているのですが、そこで描かれる小説の内容と、現実で起きる戦いがシンクロしていく感じは、他の小説にはない要素で楽しめました。 そしてこの智美のサイトに関しては、妙にリアルな展開が待っています。ほんとリアルすぎて感心するというよりは、笑ってしまいましたが。 全体として、どんどん智美達が追い込まれていくという鬱展開なのですが、3巻に関しては、他の巻に比べて明るく、笑いの要素が多めだったように思います。やっぱり終盤は……なんですけどね。3巻のラストは「そこで終わるかよ?!」といった感じで4巻が出るのが待ち遠しいです。 個人的に隠れた名作だと思っているのですが、このままだと隠れすぎて、消滅しかねないのでもっと多くの人に手にとってもらいたいところですね。 細かい所まできっちり描写する文章、どこかで似たタイプの文章を読んだな〜と思っていたのですが、どことなく麻生俊平さんの文章と似ているような気がします。そんなわけで麻生俊平さんの作品が好きな人も是非(それにしても、「vs」の3巻はどうしたんでしょうか……)。 ちなみにこの作品は、ハルキ文庫ヌーヴェルsfシリーズという分類になるのですが、このシリーズを置いてある書店は少ないようです。なので手に入れるには、書店で注文するか書籍通販サイトを利用するくらいの気合が必要かもしれません。 |
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