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kalさんの選



▼プロフィール

kal
cls管理人。
ライトノベルとミステリに若干偏り気味の乱読書評サイト。

url : http://merry.mint.aisnet.jp/cls/cls.html


推薦図書
・『終わりのクロニクル』シリーズ
・『イリヤの空、ufoの夏』シリーズ




※以下のコメント中に少しだけ、しかし重大な『イリヤの空、ufoの夏』に関するネタバレがあります。未読の方は注意して下さい。

 対象作品一覧を見て、ちょっと困った。文句なしに推薦できるような作品が見当たらないのだ。最大の理由は最近ライトノベルの読書量がかなり少ないことで、このような企画に参加するには役者不足も甚だしいと思ったのだが、極めてライトノベルらしいもの、逆にライトノベル的でないもの観点で2作をチョイスしてみた。

 極めてライトノベルらしいのが、川上氏期待の新シリーズ、aheadシリーズの『終わりのクロニクル』である。対象期間中に1<上>〜2<下>までの4冊が刊行されている。10<下>のあとに完結編も合わせて20冊強のシリーズになるというのがもっぱらの予想なので、氏の執筆スピードを持ってしてもあと3、4年は楽しめるシリーズだ。
 さて、読者の方々、特に都市シリーズからのファンには「川上さんのどこが典型的だ、異端中の異端じゃないか」と思われる方もあるかもしれない。しかしその認識は枝葉末節のみを取り上げたものである。もっと根幹を成す部分で、氏の書くものは一貫してライトノベルの王道を突き進んでいる。
 それは、果てなき理想を希求し、かつ実現までしてしまうという姿勢である。氏の書くキャラクターは皆──敵味方問わず──強く、決して諦めない。極限の状況下で究極の2択を迫られたときに、それを打ち破って第3の活路を見出す力を持っている。一歩間違えば現実を見ていないと批判されるその真摯な理想追求の姿勢に爽快感を求めて、人はライトノベルを読むのではないか。
 また、些細なことではあるが前都市シリーズと比して文章ギミックがないこと、キャラクターのノリが軽いこと、挿絵が一般受けしそうなことなど、細かい部分でもライトノベル的になっており、川上初心者でも入りやすいシリーズといえる。1巻の方が敵役がよく、より強くお薦めである。

 逆に、ライトノベル的ではないけれどお薦め作品なのが秋山瑞人『イリヤの空、ufoの夏』シリーズである。こちらは対象期間中に第4巻が刊行されており、完結している。
 先に述べたようにライトノベルとは理想追求の物語であるから、その結末は一分の隙もない完全なハッピーエンドになるのが普通である。ところがこのシリーズは違う。主人公浅羽はごく普通の中学生で伊里野は全く常識はずれであり、浅羽はヘタレだから事態は一向に好転しない。だから、あんな結末になってしまう。浅羽が強いライトノベルの主人公ではないから。一部の視点から見ればあれもハッピーエンドと捉えることは可能だが、完全無欠のハッピーエンドとはとても言えないだろう。そういう意味で、このシリーズは極めてライトノベル的ではない。
 浅羽の子供っぽい楽天的思考や妄想、意気地のなさ、ヘタレっぷりなど、決して強くないごく普通の中学生を描いていて、厳しい現実認識を突きつけられる作品であるから、同年代には受け入れられないかもしれない。が、ある程度の年齢以上にはノスタルジーを喚起させる作品であることは確かである。このように、中高生を対象としていないかのような作品が出てきたことに、ライトノベルというジャンルの懐が拡大してきたことを感じる。これからもまだまだライトノベルは拡大していくだろうか。
 終盤も勿論よいのだが(正直、ライトノベル的には反則な手法だと思わなくもない)、やはり前半の『正しい原チャリの盗み方』『無銭飲食列伝』なども大変微笑ましく読ませてくれるシリーズである。

 最後に、一番良かった1巻が対象作品から外れていることもあって推薦することは避けたが、期待の新人という観点で壁井ユカコ『キーリ』シリーズを挙げておく。特に1巻第1話の構成は見事であり、楽しみな作家である。