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くわね@まるちさんの選。



▼プロフィール

くわね@まるち
男性、1979年生。

伊吹山観測局
一応、一言程度のことがほとんどではあるものの読んだ本の感想は適宜日記形式で公開中(平均25冊/月)。

url : http://kuwane.tomangan.org


推薦図書
・アンダーラグ・ロッキング/名瀬 樹/電撃文庫
・ユニバーサルアーミー/藤原征矢/ソノラマ文庫
・七姫物語/高野和/電撃文庫
・ネザーワールド/―カナリア―/東佐紀/集英社スーパーダッシュ文庫
・されど罪人は竜と踊る/浅井ラボ/角川スニーカー文庫




■推薦作品(ノミネートの部)
名瀬 樹「アンダーラグ・ロッキング」電撃文庫

 淡々と語られる日常としての戦争の物語。それがこの「アンダーラグ・ロッキング」だ。ここに登場する少年、少女達はみな、終わりの見えない戦争を日常として生きている。彼らは戦争以外を知らないだけではない。みな、戦争が終わったときに帰る場所さえ失っている。この設定から想起される文学作品がある。戦争文学の傑作として知られるレマルクの「西部戦線異状なし」だ。
 「西部戦線異状なし」はときにユーモラスに、ときに冷徹に、第一次世界大戦中の西部戦線に動員された兵士たち、わけても「帰るべき日常」を与えられることがなかった「失われた世代」の姿を描き出した。
 「アンダーラグ・ロッキング」が描くのも、まったく同じテーマだ。戦争しか知らない。だから、戦争から解放されたときのことを想像出来ない「失われた世代」。この決してとっつきやすいとはいえないテーマを、巧妙にライトノベルとして翻案することに成功している。
 やわらかな筆致だからこそ際立つ凄惨な物語。淡々と語られる日常としての戦争がここには確かに存在している。


・藤原征矢「ユニバーサルアーミー」ソノラマ文庫

 不器用な男性教官とその教え子たる「個性的」な少女達、というなんとも典型的すぎる設定の話が、気が付けば文明論にたどりついているという筆者の技がすばらしい。
 その大技のため、この「ユニバーサル・アーミー」はその後半1/3近くが表紙からも帯からも想像が付かない大仕掛けとその収拾に費やされている。何を書いてもネタバレになってしまいそうなので、詳しくは書けない。申し訳ないが、僕及びこの作品を推す他の選者を信じ、読んでみて欲しい。


・高野 和「七姫物語」シリーズ、電撃文庫

 この作品の世界が好きだ。というより、作者によって切り取られた世界の像が好きなのだ。
 やわらかく、優しく。しかし決してそれだけではない生きた世界。そこに積み重なっているであろう過去まで想起させる描写の力は圧倒的。


・東佐紀「ネザーワールド/―カナリア―」集英社スーパーダッシュ文庫

 この物語の舞台はほとんどが大深度地下である。にもかかわらず、そこには光が溢れているような印象を受けた。透徹な、けれどけっして冷たいだけではない光。決して綺麗なだけではない、けれど不潔だと言う印象だけは与えない澄み切った世界がある。


・浅井ラボ「されど罪人は竜と踊る」シリーズ、角川スニーカー文庫

 軽妙洒脱…というにはいささか皮肉のきつすぎる超ハイスピード・アクション。ほとばしる単語の波が読者を圧倒するこの小説を朗読するとしたら、古館伊知郎以上の適役は居ないであろう。そんな感想さえ抱かせる。


■オススメのライトノベル。
長谷 敏司 「楽園/戦略拠点32098」角川スニーカー文庫

 少女と、それに付き従うサイボーグのみが住む「楽園」。そこに迷いこんだ男の物語。抑制のきいた文体で描き出される「楽園」は、その裏側にあるものによって一層輝きを見せるように思う。
 読んでいくと気づかされるような粋な小技も効いていて、これが本当にデビュー作なのかと思うほどの完成度である。
 また、choco氏のイラストも、この作品の魅力を大いに高めているのは間違いない。