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燈乃りくうさんの選



▼プロフィール

燈乃りくう
天国の離宮管理人。

url : http://www7.plala.or.jp/rikuu/


 対象作品の中から。「面白い」だけで選ぶと山ほどになるので、主に「それ」だけじゃない何かを感じた作品を。選んでみるとレーベル的に偏りが見えますが・・・。

・【七姫物語 第二章 世界のかたち】高野和(電撃文庫)
・【シンフォニア グリーン 千年樹の町】砦葉月(電撃文庫)
・【姫神さまに願いを 〜荊いだく蝶〜】藤原眞莉(コバルト文庫)




 『七姫物語 第二章 世界のかたち』はもはやライトノベルとしてはおなじみの電撃大賞からの著者デビュー作の続編。『七姫物語』一巻完結でも十分に完成度の高い作品だと思っていましたが、ここに来てシリーズ化? と言った感じで「第二章」と言う形で続編が出たことで、これからますます期待したい一作。先王がなくなり国中の都市で、「我こそは先王の忘れ形見」とあちこちから次々と七人の姫君が名乗りを上げます。主人公はその七番目に現れた東和七宮こと空澄(カラスミ)姫。カラスミは今は彼女を補佐する有能な文官のトエと武官のテンに三年前に拾われ、彼女を偽者の姫君としてたて、三人で天下をとりに行くことを約束します。

 テーマは一人の少女の成長記とも取れるのですが、やはりその根本にあるのは国取り物語。小さな女の子なのに妙に現実をしっかり見ているカラスミと、しっかりしているようでどこか抜けていそうなトエとテン。そんな微笑ましい三人の日常もいつはじまるか分からない戦や互いに探りあいの外交など、人間としてあるいは国としての「死」と紙一重の位置にあることを忘れられない。カラスミたち同様、他の六つの国にもそれぞれの物語がある。姫がいて臣下がいて、民がいる。そう思うと、このどこか優しくてのんびりとした物語も、何とも残酷な話に思えてくるのです。優しい嘘と悲しい現実、のんびりとした日常と戦の緊張感、大人二なり切れていない大人と大人のフリをする子供、全てが対照的で絶妙なバランスが魅力。


 そして同じく電撃文庫から『シンフォニア グリーン 千年樹の町』を。まず何よりも世界観を押したい。機械でも魔法でもない、植物を世界の構造の根底に持ってきたところが新しいく、その設定を生かしきれているからこそ世界観だけでここまで見せられると思いました。メカニックだったり近未来だったりより日常に馴染み深い「植物」が、ここまで細部にまでいきわたったファンタジックな世界を生み出せるんだなんて。アイディアだけじゃなく、著者自身の文章力も大きいはず。

 植物が技術の動力源であり生活の友である世界、各地からさまざまな植物を街に運ぶプラントハンターが主人公な本編ですが今回は千年樹という街を作る植物の種の守人である少年が、自身が領主となる街を造る場所を探して旅するお話です。キャラクターもストーリももちろん良いのですが、とりあえずこの独特な世界観が最大の魅力。


 女性向けレーベルからは『姫神さまに願いを 〜荊いだく蝶〜』を(以下シリーズとしての感想になりますが)。歴史が好きな人間はどこかしらで史実に創作を加えると思う。ドラマや書籍はもちろん、授業中の先生の講義から歴史上の登場人物たちの性格や容姿を、良くも悪くも空想してしまう。コバルト文庫にしては濃い日本史をモチーフにアレンジをくわえた小説、著者の言う「日本史で闇鍋」という表現がまさにぴったり。舞台となる平安〜戦国の日本史を好きな人間はもちろん、歴史が嫌いという人も一度読んでみれば、難しい用語ばかりが並んだ学生時代の授業だけじゃない本当の「日本史」というものが見えてくると思うし、いつの時代にも今を生きることで精一杯の人間がいてそこにドラマが生まれていくということを感じるはず。

 あと、著者の言葉に対するこだわりやセンスは本当に素敵。流れる水のように更々と頭の中に入ってくる、そんなところもこの作品の魅力のひとつではないかと思う。日本語の美しさや言葉の持つ力、まさに声に出して読みたい日本語がそこにある。私の中であった「歴史小説=どこか堅苦しさを感じる」という先入観を打ち破ったのは、そんな要素も大きいと思う。


 まだまだあるのですが、出版時期を問わずに幾つか。上記の作品と同じくらい推薦したい作品ばかり。

【ムシウタ】岩井恭平(角川スニーカー文庫)
【消閑の挑戦者】岩井恭平(角川スニーカー文庫)
【空ノ鐘の響く惑星へ】渡瀬草一郎(電撃文庫)
【フラクタル・チャイルド】竹岡葉月(コバルト文庫)

 デビューとなった『消閑の挑戦者』とはがらりと空気の変わった『ムシウタ』を読んで、この著者さんの持つ作風の多さに期間シリーズの続編よりも完全な新作を手にすることのほうが「こんどはどんな雰囲気を味わえるかな」と、楽しみだったりします。デビュー作で大成功したけど、以降それを超える作品を生み出せないような物書きさんも多い中で、立て続けに良作を生み出す作家さんだと思います。そしてまさにこれからに期待したいのが『空ノ鐘の響く惑星へ』と『フラクタル・チャイルド』。既刊はまだそれぞれ二、三巻までですがどちらも出だしから十分に面白く、先の展開が予想できない部分が多い。二作とも二重にも三重にも張り巡らされた伏線と言う名の種がようやく芽を出し始めたばかりなので注目のタイトルではないでしょうか。