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鈴森はる香さんの選



▼プロフィール

鈴森はる香
祭屋本館管理人。

url : http://www.ne.jp/asahi/suzumori/maturiya/


推薦図書
・野梨原花南
 ちょー薔薇色の人生
 コバルト文庫
・神野淳一
 シルバー・ウィング
 電撃文庫
・海原零
 銀盤カレイドスコープ
 スーパーダッシュ文庫
・岩佐まもる
 ブルースター・シンフォニー
 スニーカー文庫
・清水マリコ
 君の嘘、伝説の君
 mf文庫




対象作品-----------------------------------------------------------

 1レーベルにつき1冊という「個人ルール」を設けて選んでみました。


野梨原花南
・ちょー薔薇色の人生
 コバルト文庫

「物語は完結を以て、はじめて生まれるもの」とは野梨原センセの言葉ですが、6年半という時間、20冊という分量を経てこのシリーズも完結しました。
 人が生ていく理由、自分が生きる理由。
 誰かを愛するということ、誰かに愛されるということ。
 世界は誰のものでもなく、諦めなければ可能性に満ちてる。
 厳しい現実を見据えながらも、立ち向かう勇気を与えてくれます。
 また自然描写も秀逸だと思います。
 花々の香りや風の心地よさ、砂漠の熱さに雪原の静かさなどの舞台へわたしたち読み手を誘ってくれます。
 数多く登場するキャラクターたちも魅力的に描かれ、その言動には心動かされるものがありました。
 シリーズ通して読めば感動間違いなし。是非っ!


神野淳一
・シルバー・ウィング
 電撃文庫

 人はたった1人で生きているわけではないし、みな誰かに支えられて生きている。
 そんな優しさを気付かせてくれます。
 誰かが優しいから、わたしも優しくなれる。
 生きていくということは、優しさをつないでいくことなのかもしれないな……と。
 その優しさを守るために、自分に何が出来るのか。何をすべきなのか。
 自分が為すべき事をみつけたとき、悲しさを越えて人は強くなれるのだと教えられます。
 揺るぎない強さを引き出す覚悟が、読み手のわたしには切なく思えてくるのですけど。


海原零
・銀盤カレイドスコープ
 スーパーダッシュ文庫

 氷上の描き方。この作品を白眉たらしめるのは、スケーティングの描写であることは間違いないと思います。
 決してメジャーなスポーツではないフィギュアスケートの技――ジャンプやスピンなど――を事細かに描写するのではなく、想像をもって描いたことには衝撃と共に感銘を受けました。
 技の1つ1つを見ていくのではなくて、氷上を舞う流れを思い描くことがこの作品を楽しむコツなのではないかと。……もちろん、技を見知っている人にはその難度の高さに目を見開いてもらいましょう(笑)。
 主人公タズサの毒舌を苦手とする人もいるかもしれませんけれど、例え非難を浴びようとも彼女はそれを自分の責任として負うことを覚悟しているのです。
 口の悪さだけに目を向けるのではなしに彼女の心理に触れてみると、間違った生き方だけはしていないのだと分かってもらえるのではないかと思います。


岩佐まもる
・ブルースター・シンフォニー
 スニーカー文庫

 文章で芸術を表すのは容易ではないと思います。音楽を題材にした小説があまり多くはないというのもこの辺りに要因の1つがありそうですが、この作品はそんな中での例外の1つ。音楽、それもオーケストラを描こうとした、その選択眼に感服します。……というか、ホレました。
 群像劇と言い表すには登場人数が決して多くはありませんが、その点は「オーケストラ」を描くには必要な人員は揃っているということでクリアできます。
 この作品の良いところ、描いていこうとしたことは、「人の多いドラマ」ではなく「疑似家族が生み出す絆の深さ」なのではないかと思います。
 血の繋がりが「家族」という集団の絆には必ずしもなり得るわけではなく、むしろ血の繋がりなどなくても同じ志や想いを持つ者同士のほうがその名に相応しい集団になる……。そういうことを描いているのではないかと。
 また音楽という題材がただフレーバーとして置かれているのではなく、音楽を介して、あるいは音楽に対する姿勢でもって、各キャラクターの立ち位置や言動にまで深く根ざしていることが好感です。
 疑似家族の絆を描くという点に関しては、岩佐センセの他作品『ブルースター・ロマンス』や『ダンスインザウィンド』のシリーズでも同様なので、興味を引かれたかたは御一読をオススメいたします。
 というか『シーキングザブラッド』の次が刊行されてほしいデス……。


清水マリコ
・君の嘘、伝説の君
 mf文庫

 未来への途中にいる男の子と、過去から踏み出せない女の子。2人がいまの場所から旅立つための通過儀礼、イニシエーションの物語なのだと思います。
 1人で越えることには意味があるかもしれないけれど、それはなにも2人で越えてはいけないということではないのです。むしろ、2人だからこそ見えてくることもあるわけで。
 熱中できることは既にブラウン管の向こうにはなく、手を伸ばせば届くところにしか現実を感じない世代。でもそれは哀しいことではなくて、より濃密な時間を過ごせる可能性も秘めているのかもしれないなぁ……とか思ったりもします。
 哀しいのは、その可能性に気付かずに無為に過ごしてしまうですね。
 消費するモノを見失いつつある時代に、作られては消えていく都市伝説こそが唯一少年少女を成長させるアイテムなのかもしれません。
 『嘘つきは妹にしておく』と世界がリンクしていますので、より楽しむためにあちらからお読みになられてはいかがでしょうか。今回の選定では対象外作品ですけれど、もちろん良作ですよ〜。


対象外作品---------------------------------------------------------

 今回の選定ではライトノベルのカテゴリーに含まれなかったものの、近似のソウル(笑)を持っているのではないかと思われる作品をピックアップしてみました。

白倉由美
『キミを守るためにぼくは夢を見る』
 講談社刊

 同じ時間を共有することが叶わなかった少年と少女が、互いに1人だけで通過儀礼に挑まなければならない物語。
 時間も場所も、離ればなれになったとしても、2人の心は深いところで触れ合っているために、恐れることなどないのです。
 少年は少女のために大人になることを選び、少女は幼い約束をいつまでも守って少年を待ち続けるのです。
 そんな2人にある未来は……もちろん、倖せでないはずがないですよね?


はやみねかおる
『僕と先輩のマジカル・ライフ』
 角川書店刊

 ジャンル的には心霊探偵――サイキック・ディテクティヴ、になるんでしょうか。
 その解き明かし方というか、ヒントのちりばめ方がとてもとても見事で〜。
 決して心霊現象を頭ごなしに否定しているのではなく、自然を恐れる人間の心理を理解しているからこそ描けるのではないかと思います。
 それでも中心人物は事件を解決する探偵役の先輩ではなく、世間の常識とは離れたところにいる女の子と、その女の子に振り回されつつも常識を守り続ける男の子なのです。
 常識を挟んで対局にある2人の少年少女。
 そんな2人が織りなすコメディ・ミステリーだったりします。


米澤穂信
『さよなら妖精』
 東京創元社刊

 ミステリ要素はありますが、そこが主題ではなく――。
 退屈でも穏やかだった日々に、1人の異邦人が運んできた「非日常」。
 世界の広がりに感銘を受けながらも戸惑う主人公たちの前につきつけられるのは、世界は誰かの意志で作られているという現実。誰かというのはもちろん自分も含まれるのですけど、だからといって自分の意志が世界を変えると信じられるほどに子供でもなく、かといって不可能を不可能と割り切って納得できるほどには大人ではなく……。
 1人だけ先に大人になってしまっていた少女を追いかけていく、主人公たちの切ない青春を描いています。