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作品評
天使のベースボール 2

著者 : 野村美月
絵師 : 尾崎弘宜
ISBN : 4-7577-1476-9
page : 253p


新月お茶の会 /
   男オタクの欲望に奉仕するべき少年向けライトノベルの世界において、女性である書き手自身の欲望に向けて小説を綴り続ける野村美月の存在は極めて特異であり、大袈裟に言えばライトノベルの枠組みそのものを揺るがすインパクトを持つ。
 とりわけこの作品は、そのような野村作品の中でも、最も彼女自身の欲望が赤裸々に剥き出された、例えば『若草野球部狂想曲』あたりとは一線を劃す異形の野球小説である。
 底辺校の野球部監督に就任した新任女教師の奮闘を描くと言いながら彼女はまるで学生達を指導しない。彼女はただ、野球部のワイルドな不良生徒と元許嫁のエリートプロ野球選手の間で揺れ動くだけだ。
 それも当然だろう、この作品は、「逆境にもめげず頑張る健気な女教師を愛でたい」という男の欲望ではなく、「不良っぽいけど不器用に優しい年下と生活力と包容力がある年上との間で板ばさみになって、ちやほやされつつ女王様的にラブアフェッアーを楽しみたい」という女の欲望に基づいて書かれているのだから。
 恐らくは無自覚に、少年向けライトノベルのジェンダー的欲望をそっくりひっくり返してしまう野村美月。その恐るべき精神構造はもっと評価されてもいい。
( 新月お茶の会さんの紹介ページへ )