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作品評
総理大臣のえる!(6) 花嫁がいっぱい

著者 : あすか正太
絵師 : 剣康之
ISBN : 4-04-426206-3
page : 335p


工藤 智和 /
   リストには6巻しかないのでこれに投票しましたが、シリーズを通しての票です。説明しますと、悪魔(といってもただのしゃべるだけの猫的な扱いで、悪魔らしいことは何もしません)との契約で総理大臣の職を手にした女子中学生折原のえる。彼女の織り成す豪快かつ破天荒な行動が痛快です。例えば、ディズニーランドを一日借り切ったり、マックに自衛隊の戦車で乗りつけたり、幼馴染の少年を無理やり巨人軍のピッチャーにさせたり等々……。正に職権濫用、彼女の気の赴くままにやりたい放題やりまくります。
 ここで出てきた幼馴染ですが、彼は長谷川健太といってごく普通の中学生です。でも、ある日突然のえると再会して(設定では彼女の両親が冒険家で、その影響で彼女も世界中を一人で旅していたということになっています。だから行動力が人一倍あるという性格付けです)上に挙げたような一連のドタバタに巻き込まれていきます。

 特徴の一つとして、下ネタがかなり多いです。全ギャグの六割ほどを占めています。ノリも男性向けドタバタラブコメのテイストなので、はっきり言ってあまり女性受けはしないかもしれないです。それに、あまり描写とかも上手いほうではありません。いろいろな所で「ここが少し分かりづらいな」みたいな部分があります。技術的に拙い部類に入るかもしれません。

 じゃあ、何でこのシリーズを薦めるのか?答えは簡単です。シリアスな場面でのえるが見せてくれる物凄いパワーです。普段は無茶苦茶なことをやったり言ったりしている彼女ですが、彼女的に許せなかったりおかしいと思ったことに対しては本気で突っ込んでいってくれるんです。三巻では世界貿易センタービル爆破事件をメタファーしているのですが、その事件で親友が死んでしまった彼女は一人で直接首謀国(この時点ではまだ国名が分からなかったらしく、中東にあるというだけの架空の国ですが)に乗り込みます。そのクライマックスでの会話と独白には本気で圧倒させられ、感動させられ、考えさせられました。本当に熱くて凄いです。そうとしか言えません。
 更に、この作家さんはかなり政治経済についての知識を持っています。これは作品中でも随所に出てきます。のえるが総理大臣らしい仕事をするシーンでは、それを用いて政治の実情を痛烈に皮肉りつつ進んでいくので驚嘆させられることも多いです。

 ここで6巻の紹介を少し。5巻からの流れでアルカンタラという架空のアジアの産油国に連れてこられた健太。そこでシャイニィというその国の王女に求婚されます。(彼女は二巻で出てきてます。のえるの親友の一人で、紆余曲折あって健太のことを好きになってしまいます)それにのえるが待ったをかけ、他に何人も加わって健太の争奪戦が始まる……といった王道的ラブコメな展開です。
 私の大好きなシリアスシーンもちゃんとあって、そこでは健太が中心となって大活躍します。これはシリーズを読んでいた人にはかなりの驚きなんです。何故かと言うと健太は無力な小市民(健太自身がそう考えている)として描かれることが多く、今まででは活躍する場面でも誰かのオマケでくっついてきただけという印象がぬぐえなかったからです。でも、今作では一念発起。やってくれます。これ以上言うとネタバレしそうなので、深入りできないのが残念です……。

 構成的にはまず導入部が少しあって、次にドタバタギャグが全体の六、七割程度。で、シリアスシーンが百ページ弱あって、最後にエピローグでちょっと笑わせて締めます。5巻は短編集(?)なので違いますが他の巻では大体こんな感じです。
 蛇足ですが、これの作家さんは書いているとき、キャラクターが主張するようになるまでやるそうです。具体的に言うと「オレ(私)は本当はこう言いたいんだ」とキャラ自体が言ってくるように感じるようになるまで、なのだそうです。もしかしたら、私がこのシリーズのシリアスシーンを最も好むのはこれが原因なのかもしれません。
 あと、読み比べて思ったのですが、このシリーズは鷹見一幸さんの作品と似た雰囲気があるように感じます。何と形容すればいいのか、作品全体から出るオーラというか、主張というか、根底に流れているものが同じように思えます。キャラクターや話の流れのアツイところなんて結構似てます。だから、「時空」シリーズとか、「でたまか」のそういう所が大好きだ!という人には特にお勧めできます。

 と、まあ長々と色々並べ立てましたが、この紹介文を読んで少しでも興味が出た方がいましたら、とにかく一回読んでみてください。確かに少し読者を選ぶかもしれませんが、その分ハマる人はハマります。かく言う私もその中の一人です。面白さについては私が保証します。ドップリと浸かりきること請け合いです。
( 工藤 智和さんの紹介ページへ )