往復書簡

「ライトノベルと児童文学のあわい」

時海結以 結語

男女差を意識していますか?

時海結以

 長い長い書簡のやりとりにおつきあい下さいまして、心より感謝申しあげます。

 このサイトのコラムや書き込みに参加されていらっしゃるライトノベルのプロの書き手の皆さまは、経験豊富で長年に渡るキャリアをお持ちです。その経験から紡ぎ出されます言葉は、大変貴重であり重みがあると感じています。
 その中へ自分のような、デビューしてから1年半の若輩者がしゃしゃり出てよいのか、迷いましたし、今でも正直気後れしています。
 しかも、大変多くの書物に接して日々勉強されておられるくぼさまと異なり、自分は理論や傍証として鑑みることができる書物にあまり触れていません。語れる根拠は1年半の、拙く乏しい経験に根ざすちっぽけなものだけです。
 それでもこうして語らせていただきましたのは、その1年半が児童文学とライトノベルの間にある「何か」を、日常的に乗り越える生活をしてきた時間だったからです。

 この「何か」は児童文学関係の方々とお話しするときに、具体的に見えるケースが多いようです。創作姿勢や手法の違いです。
 児童文学関係者の中でも、漫画やアニメに親しんで育った世代の方ですと、この「何か」を誰かに具体的な言葉で解説してほしいと、ときたまもやもやーっと思っている場合も多いそうです。
 そういう児童文学関係者側の声も、このサイトとは別の場所にあることをふまえ、自分はくぼさまと電子掲示板の上で公開書簡を記しました。

 ライトノベルと一般エンターテインメントの境は柔らかく混じりつつあるようです。このごろ雑誌や新聞で、一般読者を対象にしたライトノベルの特集記事をいくつも目にしました。
 このサイトで「推薦するライトノベル」に、例示されたレーベル以外の作品を挙げた方もいらっしゃいます。
 しかし、児童文学との間には見えない「垣根」があります。一般向けとライトノベルの間に比較して、はっきりと仕切が感じられるのに、それが何か、具体的に表現した例が、管見にして私は目にしていません。自分の中で明確にしたくて、私は拙い経験の中で手探りした「垣根」の形を描こうとしてみました。いくらかでも具象化した「垣根の画」が、お読みになった皆さまに見えてくださったのなら、幸甚に存じます。

 書簡で論じなかったことを一点だけ、この場で呈示することを、お許し願いたいと存じます。
 ライトノベルには男子向けと女子向けがあります。書き手もどちらかを無意識にあるいは強く意識して書いているでしょうし、一読すれば、たいていの読者はこれが「どっちかと言えば」男子向け・女子向けと感じとるのが可能でしょうし、「向け」と自分は異なる性別だけれど、なかなか面白く読めた、という体験もおありの方もおいででしょう。
 この「向け」の差は何か。
 作者が強く意識しているかどうかは別としまして、私個人の考えを述べさせていただくなら、それは「向け」側の性別から見た異性の書き方が、より理想的かどうか、だと思います。
 「男子向け」なら萌えられる女のコ、「女子向け」ならかっこよくてクールな美少年。
 付け加えるなら「女子向け」には恋愛要素が多めの傾向があります。

 この男女差は、漫画雑誌と同じです。また幼児向けのアニメ・特撮番組には、明らかに比較的男児が好みそうなものと、比較的女児が好みそうなものが区別されてあります。
 では、幼児向け特撮番組とライトノベルの各享受者層からすると、中間の年齢に当たる小学生が読む児童文学に、男女差はないのでしょうか。
 言い換えれば、男女両方が同じ作品の同じ場面で喜び、面白がり、読者の性別がちょうど半々なのでしょうか。

 私が児童文学の執筆を通して知ったのは、小学生の読書で一番好まれるのが「女子はフィクション、男子は読まないかノンフィクション」という住み分けでした。読まない男子はゲームをしたり、スポーツをしているのです。
 「男子向けに書いて女子も読めば、女子向けに書くよりも数が売れる」
 これが児童文学の狙い所です。男子でも読めるフィクションが売れやすいのです。

 考えてみればもっともです。少年漫画をどうどうと読む女子に比べて、少女漫画をどうどうと読む男子は少ないでしょう。読まない読めない理由はさておき。
 これを「男女どちらでも読めるように」とか「どっちが読んでも別にいい」と、もし考えて児童文学を書かれる方がいらっしゃったとして、魅力を絞りきれなくなるおそれは、ないのでしょうか。
 小学生は、同性で固まりたがりますし、異性にライバル心を持ちます。男女どっちでもいいなんて作品、敬遠するように思いますが。

 この読者対象を想定した男女差のつけかたも、児童文学とライトノベルの差異の一つではないかと思うこのごろです。

 長文ご精読、恐縮の極みです。まことにどうもありがとうございました。

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