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作品評
THE DOLL HUNTER 人形はひとりぼっち

著者 : 中島望
絵師 : 藤谷
ISBN : 4-8291-6245-7
page : 249p


黒雨 /
   講談社のメフィスト賞からデビューした中島望が富士見ミステリー文庫に進出した作品。内容はSF的なもので、題材としてはクローンを扱っている。富士見ミステリー文庫というレーベルは純然たるミステリーをそもそも取り扱わなうためのレーベルではないので、レーベルの中で浮いたりはしていないだろう。
 設定としては、クローンが法規制されている社会で、法規制直前からあったクローン技術によって出来たクローン、蔑称で「人形」と呼ばれているものが抹殺される、という形。主人公が通う高校の一つとなりで「人形」が発見されることから始まる。
 この作品で押し出されているテーマのひとつに、アイデンティティがある。自分が自分であるというよりどころがどこにあるのか。ふと、自分が幼稚園の時に死んでいて、それをクローンとして甦ったものだと気付いたら。自分は自分であって自分でない。自分とは何かを、中高生に考えるように促している表現が見受けられる。
 同時に、中高生に向けて、人間とは何か、を問いかけている節もある。見た目も構成も人間であることは間違いない。それでも「人形」というレッテルを付けられただけで、安易に人格から生存権まで完膚無きまでに否定される社会。クローンだけでなく、先入観でもった意識や、差別の対象になるようなものを抱えていたら、それだけで全否定していいのかどうか。それを訴えかける作品としても存在している。

 先に述べたが、この作品は富士見ミステリー文庫というライトノベルに属するものだ。中高生向けというジャンルの特性を活かしている良作といえるだろう。ただ、SF的といってもクローンがモチーフとして使われているだけであり、SFでもミステリーでもない。
 中高生むけのエンターテイメント小説として、良作だった。
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