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作品評  /  イラストへの評を見る。
ラグナロクEX.(8) FEARLESS(フィアレス)

著者 : 安井健太郎
絵師 : TASA
ISBN : 4-04-419218-9
page : 253p


freebird /
   安井健太郎著、『ラグナロク』。何を隠そう、ライトノベルの中で私が一番最初に読んだ作品である。そして、私の中でのライトノベルに対する評価を変え、加えては小説全体に対する評価を変え、その後の私という存在を形成するにおいて非常に重要な役割を担った作品そして著者と言える。そしてこのシリーズの最新作である本作もまた、発売直後に購入し、楽しく読ませていただいた。
 さて、そんなこのシリーズは、果たして何が魅力的なのだろうか。私はその理由の一つに、ライトノベルとは思えないほどの描写力を掲げる。丹念な描写。ファンタジー世界という現実からかけ離れた世界でありながら、その様相を瞼の裏に明確に映し出してくれるその描写には、感動すら覚える。通常のライトノベルではここまでのレベルは珍しいだろう。その描写の高い能力が、そのままこの世界観を形作っていると言える。即ち、こういったジャンルでは感じがちな、『子供っぽさ』というものが殆ど感じられないのだ。それはキャラクターの平均年齢の高さやテーマの重さなども原因ではあるだろうが。ただし、敵の造形や武器特殊能力の原理などで若干のファンタジー色の強さは否めない。そこは少し勿体ないかと思われるが、それもまたこのシリーズの特徴ではあるので無闇に否定できないだろう。
 次に挙げられる魅力が、戦闘シーンの迫力。ここまで残酷かつ丁寧に戦闘シーンを描写する作品は、本当に稀であると同時に貴重であると感じられる。私自身も戦闘シーンを描く際、この作品を参考にしている。好き嫌いは別れるだろうが、戦闘シーンの中ではこの作品のものが最もレベルが高いと思われる。他に戦闘シーンを描きたいと思っている物書き志望の方も是非参考にしていただきたいと思う。この戦闘シーンというものがこの作品における最大のセールスポイントであることは著者も理解しているようであり、このシーンは特に出現率が高い。そのため、作品全体を通してかなり手に汗握る展開を多く感じることができる。かなり面白い、と私は言おう。しかもその戦闘というのがただ剣を振るうだけの戦闘ではなく、時に怪物になったり、時に剣以外の武器を扱ったり(私が好きだったのは、主人公が大工道具を用いての戦闘シーン)、またその戦闘場所も多彩である。市街地、列車の上などなど……オブジェクトも多用されており、もはや戦闘シーンにおいて文句はつけられないレベルである。本書においても、沼地において人智を超えた能力を操り、主人公と敵が対峙している。
 最後に挙げられる魅力が、長いシリーズによって培われてきた世界観。物語自体はありきたりな部分もあったり、戦闘シーンで引っ張っているような部分もあったりとそれほど評価はできないのだが、それらによって形成された世界観はかなりの規模を持ち、かなりの複雑さを持ち、更に本編だけでなく本書のような『EX』と呼ばれる外伝を用いて更なる高みにまで成長させられている。それはただの一冊の本だけでは作ることなど決してできない世界――大いなる一つの世界を、本シリーズを読み解くことで体感できるだろう。
 最後に、良いとは言えない点を挙げてみたい。何度も述べた通り、戦闘シーンは全くもって申し分ないので、それだけで充分このシリーズには価値があるのだが、その代わりその裏に隠されている、物語としての面白さは、それら戦闘シーンに比べるとやや劣っているといわざるを得ない。まあ、とは言え、先ほども述べたとおり複雑を極める世界観と人間関係には興奮すら覚える。本作品『フィアレス』においても、本編において未だ謎を多く残すキーキャラクターたちの若き頃が描かれている。ファンとしてはやはりなんともいえない魅力を放っているのだ。是非皆さんも、このシリーズのファンとなってもらいたい。そして、この世界の素晴らしさを体感してもらいたい。私はそう願う。
 最近、このシリーズの刊行スピードが急激に衰え、本書においても初期の段階で製作されたものを多く加えたり次回予告が無かったりと著者の疲れが顕著である。ファンとしても不安きわまりないが、是非とも頑張って次なる作品を刊行していただきたいと思う。
 でわでわ、長文失礼致しました。freebirdでした。
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