|
この小説は恐ろしい。 面白いのだ。ただのエンターテイメント小説に見える。ギャグがあり、キャラクターがあり、そこまでしていながら、作者の限りない悪意がじわりと感じられる。 ギャグの展開が上手く、ストーリー展開も上手い。悪意を感じないまま読み進めることが十分に可能だ。話の展開自体が面白いと思えるエンターテインメント。それにつきる。 なのに、そこに作者の意図的が悪意が加わる。その悪意は、主人公の精神を揺さぶる明確な悪役めいたキャラクターに存在していない。そこではない。全体にふらふらと揺らめいているのだ。 この水と油ともいえるべき二つの要素を石けん水を入れたかのように混ぜ合わせる技量は、評価されるべきである。 だからこそ、この作品のラストシーンが頷ける。最後の最後で、今まで積み上げてさりげなく滲ませてきた悪意全てを崩壊させなくて良かったと安堵するくらい。
というわけで、十分に堪能してみたりしました。 |