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まさしく、「すごい!」という言い方をするのにふさわしい作品。
SF的ガジェットもさることながら、「SH」の韻律により生み出されるこの世界独特の雰囲気が作品を変えがたいものにしている。 それは必ずしも話のメインではないし、注目すべきところはいくらでもあるのだけど、こんな観点から言ってもこの小説は冲方さんにしか書けないと言える。少なくとも僕はそう思う。
「ちくしょう(ガッシュ)」
中でもこの言葉が深く印象に残っている。 まあ、それはそれとして。
1、2、3、と三冊続く中で選ぶなら、やはり最高の盛り上がりを見せる三巻がいい。それも中盤アシュレイとのブラックジャックのシーンが一番だ。 スロット、ポーカー、ルーレットと、それまで、相手のことを心理、動作、呼吸、様々な側面から読み、対抗することでチップを増やしてきたバロットとウフコックが、それまでの方法ではまったくもって理解不能な、わけのわからない状態へとたたき込まれる。 何手何十手何百手、ブラックジャックにおいてそれだけの数のドローが繰り返されればどう思うか? それも偶然ではなく、間違いなく相手の恣意によるものでの場合だ。 実際の話、そんなことはあり得ない。 そう。そのあり得ないことが起こるからこそ、読者は足下を崩されたような気分になる。 このときの絶望感がとんでもない。 そして、「だからこそ」、この絶望をひっくり返すときのシーンほど心震わされるものは無い。 バロットとウフコックという異なる存在が、どのようなコラボレーションでこれをひっくり返すのか。 このシーンの一行一句一字、そのすべてを味わうためにこそ、この小説はあったのだ。
過言だとは思うけれど、そこまで言い切ってしまっても許される程のものがここにはある。 |