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作品評  /  イラストへの評を見る。
きみとぼくの壊れた世界

著者 : 西尾維新
絵師 : TAGRO
ISBN : 4-06-182342-6
page : 295p


一枝零知 /
  西尾維新作品の中で初めて手に取ったのがコレ。同時に、講談社ノベルスを知る機会ともなった。主人公の櫃内様刻は『持てる最大の能力を発揮して最良の選択肢を選び最善の結果を収める』を信条とする高校生。実際その通り、主人公の思考の途中ではよく幾つかの選択肢が示される。しかしこの選択肢、実は結構視野が狭い。このことは様刻が通う高校の保健室登校児にして学園始まって以来の秀才・病院坂黒猫によって指摘されている。ところで、『壊れた世界』と云うタイトル通り、実に壊れている。人物も思考も事件も。やがて、殺人が起こる。大概のミステリはこの謎解きに時間(=ページ数)をかけて、探偵役がああでもないこうでもない、などと考え云いつつ最終的に事件は解決、人死が出るもののハッピーエンドでまるく収まるものだが、当然その様な展開は出尽くされてしまって面白味に欠ける。ではこの小説はどうなるのかと云うと、当然ながら人死は出る。それからの展開が各小説家によって別れる分岐点となるのだが、西尾維新氏は犯人を登場人物に指摘させながらも逮捕者が出ない。これはつまり、この小説における探偵役、病院坂黒猫は犯人を指摘しながらも、告発役、櫃内様刻にその告発するかしないかと云った選択をまかせる(まかせるにしてはあまりにも理不尽な選択だと思うが。ほとんど拷問だ)。そしてその犯人と云うのが同じ高校、同じクラスの人間、しかも友人だったりするあたり、やはり櫃内様刻にとっては最悪の選択肢しか残されていない。『持てる最大の能力を発揮して最良の選択肢を選び最善の結果を収める』を実践してそれに成功してきたにも関わらず。途中、病院坂の自殺未遂、様刻の過剰なシスコンなどあって、ますます世界は壊れていく。筈、なのに、何とこの状況がハッピーエンドになってしまうのだ。これには驚嘆させられる。また、最後の台詞も強烈だ。
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Se27 /
  近年のライトノベルというジャンルを考えた場合、「萌え」文化と対をなす潮流として「セカイ系」(という言葉自体に賛否両論は在ろうが)作品群があげられるのは避けられないだろう。本作は、「戯言」シリーズで一大センセーションを巻き起こした西尾維新が、「セカイ系」であることに自覚的に取り組んだ意欲作であり、同時に「セカイ系」(自意識=世界)という狭い枠の中で、近親相姦的に劣化コピーを繰り返していた作品群に一石を投じた問題作でもある。「セカイ系」=「きみとぼくのセカイ」の正統であると同時に、「きみとぼく」の生んだ奇形児であるというのは西尾維新小説の特徴でもあるが、本作はそういう意味でも「実に西尾維新らしい」と言えるのではないだろうか。西尾維新の初読者に薦めたい。
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ぴすかす /
  萌えアニメやギャルゲー風味な味付けですが
ミステリとしての解答編はかなり丁寧な解説が
なされていたように思いますし、
キャラ萌えだけでは終わらせない何かがあるかと。
メフィスト賞の作品は
変わった名前の風変わりな人物がよく登場しますが、
本作の「病院坂黒猫」は最後まで誠実で好感を持てた。
しかしすごい名前だ。
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ぷらとー /
  「きみとぼく小説」、あるいは「壊れた世界系ミステリ」にはこの一冊、と間違いなくオススメできる作品。キャラ造形、ストーリィ展開、すべてが狙いであり、それが一ミリも的を外していない。表面だけを見ても萌えられ、さらにおそるべき深奥が。
 読後、じわじわと自分の中で評価が高まっていった作品。西尾維新はクセになる。
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まらも /
  ミステリとか、本格とか、普段読みませんので冒頭にあるようなミステリ小説についての話は、分からないところも含めて面白かったです。
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海燕 /
  西尾維新「きみとぼくの壊れた世界」

とんでもない小説だ、これは。思わず「Fate」と比較してしまうのだが、奈須きのこと西尾維新の作風は性格が正反対の双生児のように似ていると思う。表面的にはかぎりなく相似していながら本質的には対極。その立ち位置は萌えムーヴメントの両極にあるので、萌え民はこのふたりの作品だけを読んでおけば、ほかのアニメとかゲームとか漫画なんかはべつに触れる必要がないかもしれない。

すくなくとも僕は「Fate」とこの作品を読んでいわゆる「萌え」的な作品に関する興味が薄れていくのを感じている。この二作品のなかに「萌え」の両極端を見てしまった、という気がするのだ。すなわち「依存」と「自立」の極をである。「依存」を担当するのは「きみとぼくの壊れた世界」。この作品はいままさに一線を越えようとしている兄妹の危険な関係に殺人事件を絡めて学園ミステリに仕立て上げているのだが、その妹の兄への依存ぶりは驚異的である。

そもそも「萌え」とは依存的人間関係を苗床にして咲く妖しい花だ。この業界では完全に自立していてひとりでなんでもできるようなキャラクターは人気が出ない。したがってビジュアルノベルの世界ではヒロインを主人公に依存させるためにさまざまな設定を持ち出してきている。不治の難病にしてみたり、廃棄寸前のアンドロイドにしてみたり、未来人にしてみたり、と超日常的な設定のオンパレードである。現在、それはユーザーの要求に応えてさらにさらに先鋭化しつつある。

だが、それでもこの作品の妹キャラほど依存性の強いキャラクターはまずいない。これではいくらなんでも読者は萌えを通り越して引いてしまうからだ。このキャラクターは性格的には普通の萌え妹(なんだそれ)なのだが、とにかく兄なしでは生きていくことができない。たぶん兄が拒絶したらそれだけで死んでしまうだろう。主人公と彼女の関係性はグロテスクなまでに歪んでいるが、これはあきらかにわざとやっている。そう、この小説で西尾が取り組んだのは「萌え」の戯画化なのだ。

「きみとぼくの壊れた世界」。現代ミステリを切り取る重要なキーワードをふたつも嵌め込んだ象徴的なタイトルからわかるとおり、本書は現代の「壊れた世界」を描こうとするメタビジュアルノベル的な学園小説である。西尾の代表作である戯言シリーズの主人公が徹底してはぐらかしに終始し本心を見せようとしないのに対し、この作品のキャラクターの台詞は一貫して率直だ。だが、その言葉のひとつひとつはいちいち歪んでいる。病んでいる。狂っている。

しかしその歪みと病と狂気にもかかわらず、否だからこそ本作は予定調和的な幸福な結末へとたどりつく。嘘と依存の輪舞のすえにたどりつく「えんでぃんぐ」の光景はちょっと正視できないほどグロテスクだ。しかし、と西尾は無言で読者へ問いかける。歪んでいてなにが悪いのか? 病んでいてなにがまずいのか? 狂っていてなにが問題なのか? 僕の答は当然「なにも悪くない」だ。

嘘と偽りに満たされた「仲良し空間」は同時にこのうえもないほどのやすらぎと幸福でも満ちているのだから。だが――とも僕は思う。やはり、歪みではたどり着けないものもある。病では克服できない境地もある。狂気では獲得できない誇りもある。幸福とやすらぎを選ぶのなら、それは棄てなければならないのだろう。これは「Fate」をプレイしたからこそ思うことだ。あの作品はある意味でこの作品の影絵である。

一応本格ミステリでもあるのだが、僕は解答編を飛ばしてしまおうかと思ったくらいなので、ミステリ的要素抜きでも充分に楽しめる作品であることはまちがいない。僕は病院坂黒猫とちがっていくらでもわからないことを放置できるのである。ミステリとしてみれば、たしかに「あの描写」はアンフェアだろう。どうでもいいけどね。それにしても夜月、いい本の趣味しているな。国枝士郎読んでいる女子高生なんて一万人にひとりくらいしかいないぞ、たぶん。
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いのま /
  この小説には暴力的な表現が含まれています。
次から次へと繰り出される戯れ言はイー君と比べても劣っていません。
世界に対する認識を一時的に壊してみたい人にお勧め。
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本文に騙された名無しさん /
  とても西尾維新らしさに溢れた作品。各所で「萌えを狙いすぎ」という意見があるけど、基本的に私は萌えなかったので、萌えを狙った作品ではないと解釈する。
これは「教科書的な作品」として書かれたらしいが、それ以外にも「きみとぼく」と括られることに対しての意見、「壊れた世界」と言われることに対しての反論の意図も込められている。そして、それらが高いレベルで表現されている。エンターテイメント方面の作品が「戯言シリーズ」ならば、この作品は「西尾維新の書きたいこと」を凝縮した方向での一つの到達点だろう。
書きたいことを書けるのは凄い。
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座敷ドラゴン /
  変人祭り第一弾。
変人を書かせたらこの人の右にでる人は・・・成田先生くらいでしょう。
ミステリーとしてもおもしろいですが、私は黒猫さんの話が印象深かったです。某戯言遣いを思い出します。
「持てる最大の能力を発揮して最良の選択肢を選び最善の結果を収める」主人公の持論ですが、それが出来たら苦労しないって。
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きぃる /
  『誰かのために』と自分のことを勘定に入れず、世界を騙した結果、その世界に騙されている気がしてならない。そんな考えを抱いていた主人公がなんとなく哀れに思えてしまった。
それでも主人公の隣には『彼女』が居るのだろうと思えば少し安心できる気もする。
それにしても、彼等は難しく考えすぎのきらいもあるのでは。
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クローカ /
  維新流本格ミステリィ。
青春エンタの完成系はここにあると思う。
萌えと狂気をミクスチャーした西尾維新の最悪にして最高の傑作。自分が生きてきた中で最も面白い作品です。

読め。
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regal exception /
   この作者、もともとライトノベルレーベルの出身じゃないはずですが、どの作品もライトノベル色が強いです。なかでもこの作品は特にその色が濃く、「妹」とか「病弱な(?)同級生」とか
オタ心をくすぐるアイテムがバシバシ出てきます。
 一応はミステリーだと思いますが、瑞々しい学園小説として描かれています。特にこの作者には珍しく余り無理のない舞台設定になっているのがとっつきやすさを増幅しています。ワタクシは某「DC」とそっくりと思いましたな(笑)。人に言ったら大ウケされました。とりあえず学園小説好きな人にはおススメです。
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チャーリー /
  自信がもてました。
妹が好きでもいいじゃないか。
嘘をついてもいいじゃないか。

それは壊れた世界のお話なのですが。ちょっと自分のダメっぷりに気づかされちゃいましたね。
激しいバトルがあるわけでもないのに、何でこんなに熱いんだろう。
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TD /
  「私は、この本を推薦しない。もし、あなたがいままで狂気に犯されたことがなく、これからも健全な精神を保ちたいのなら、絶対にこの本を読んではいけない。」

 この本には常識で考えれば「壊れた」人間が多数登場する。読者は、あなた自身の倫理観により、不快と感じるか、あるいは、不幸にもなじんでしまうか、の二者択一を迫られるであろう。

 この本に描かれる「狂気」を不快なものと感じる、正常な倫理観を持つ人間が読めば、たいした影響を受けることはないだろうが、しかし、この本を面白く感じることもないだろう。それは、幸福なことだ、なぜなら『金を無駄にした』と思うだけでそれ以上の悪影響を受けずに済むのだから。

 この本に描かれた「狂気」を快く-あるいは面白く-感じてしまった人間には、以下の言葉を捧げる

ようこそ『壊れた世界』へ

 この本は、「壊れた」登場人物に魅せられてしまった可哀想なあなたのための本である。「狂気」に魅せられ、それに耽溺してしまった人間がその「狂気」に溺れ、自慰行為に耽るために読む本である。そうした人種にとっては、この本は、このうえなく心地よい、天上のネクタルのごとく甘美なるものに思えるだろう。
 だが、おぼえておこう、この時点で既に、あなたの精神は本の「狂気」の影響を受けている。
 それを厭うならば、いますぐにこの本を閉じ、本の存在を二度と思い出さないようにするといい、時間がやがてあなたの精神を癒してくれるだろう。
 もし、「狂気」に犯される自分を厭わず、受け入れるのならば。このまま突き進むがいい、あなたのためのネクタルはまだまだたくさんあるのだから。

 長くなってしまったが、最後に、読む人にも、読まない人にも、既に読んでしまった人にもこれだけは伝えておきたい。

『この』ライトノベルがすごい!
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蕾翔 /
  この小説をライト系にして良いのかは分かりませんが、
個人的には03年全ジャンルのベスト10に入れたい作品です。

学園ミステリ風ボーイミーツガールな作品。
しかしミステリではなく、キャラクター小説でしょうね。
この作品では、ミステリ作品で言うトリックへの依存度は激しく低いと思います。
事件が起きなくても成立するストーリーではないでしょうか?

この作品の何が面白いのかと考えたとき、真っ先に浮かぶのが、
主人公の他人との距離の置き方や優先順位の付け方。

キャラクターの特異性(西尾作品の全作品に当てはまりますが)
さえ気にならないので有れば、深く引き込まれる作品になると思います。
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神無月 /
  戯言シリーズでお馴染みの作家さんです。
戯言シリーズよりも多少なりとも現実に近いような登場人物たちが出てくるような作品です。
その悩みはもしかしたら実際にありそうなもので、その出来事も実際のところ起こりそうな感じはするのですが、その悩みが集合して壊れてしまったような話がこのお話だと思います。
ミステリというのには少し違うのような正しく青春エンタという表現が正しいような作品です。
こちらの作品もかなり癖があるのですが、戯言シリーズが大丈夫なのであれば十分に楽しめる作品だと思います
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燃える前から燃え尽き症候群 /
   ミステリというより、青春小説として面白かったです。
 ……なんて、くろね子さんのために買ってくろね子さんのために読んだというのが実際。見事に乗せられてます。
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文学好きの計算機 /
  最近もう1度読み返してみている。
病院坂がかなりいい味を出していてる。
いやはや、くろね子さん最高!!
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丹織 /
  畸形の青春小説。戯言遣いには語れなかった物語。
表層だけ捉えるなら「萌えミステリ」なんでしょうが、過剰なまでのキャラ装飾を取り除けば「本格ミステリ」。
フーダニット、ホワイダニット、そしてホワイダニット。パズル的に解くにはあっさりした仕掛けかもしれませんが、だからこそ狂気の物語となり得るのではないでしょうか。

極めつけは、エピローグ。最悪のハッピーエンド。読了後は嫌悪感ばかり。
主人公に共感できる分だけ、気持ち悪くなることうけあい。
だがしかし、こんな面白いこと、やめられません。
読者を選ぶ作品なので評価は両極端になりがちですが、狂気を愉しめる人にこそ薦められる一冊です。

ステキにイカレた世界へようこそ。
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狼狽売り /
  キャラクター性を前面に押し出したミステリの一つの到達点と
考える。本当の所は「クビキリサイクル」か「クビシメ
ロマンチスト」なのだが、今回は勿論除かれれているので
この作品とする。メフィストでの問題編掲載時に
結局6割正解者しかいなかったことも評価とする。
但しフェアアンフェア論争もあったことも付け加える。
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